入居者に「NO」と言わないホーム運営方針は本当に良い?

私はかつて、某大手企業の子会社である高級有料老人ホーム運営会社の経営を行っていました。現在、その会社は入居一時金が高額であるため、入居者集めに苦労しており、経営面ではあまり上手くいっていないよう。
その一つの原因が、「入居者に「NO」と言わないホームの運営方針」です。

高級老人ホームは入居時に高額な入居一時金を得るため、開設当初の資金繰りでは余裕を持った運営が可能となります。
ただ、入居者も「物言う」入居者が多く、想像以上の要望があるのも事実。

そのため、入居者の要望に応えるべく、職員が当初想定よりもかなり多くなりがち。
また、現場の残業も多くなり、職員を増やしても現場の人手不足感は解消できていません。

契約書には2:1の直接処遇職員比率を掲げていますが、実際には1:1と倍の人員配置をしている高級老人ホームも多いのでは。
また、高級有料老人ホームは元気なうちから入居が可能な混合型が多く、長生きリスクという問題も抱えています。入居一時金の償却後もお住まいの入居者が多数いらっしゃいます。

結果、ホームの収益性は年が経つにつれ低下していく一方。
数室空室が出れば赤字になるホームが多数です。
実は親会社からの支援や、縦施設の黒字で何とか成り立っているホームがほとんどというのが現実ではないでしょうか?

まずは運営方針の見直しから

高額な入居一時金を頂戴するからと言って、「NO」と言わず、何でも要望をこなすという運営方針は果たして良いのでしょうか。

まずは、契約書どおりの職員配置で提供できる範囲のサービスは何であるかを決める必要があります。決めた豊新を運営懇談会で入居者や家族に説明し理解を求めることが肝要です。
実は、入居者はそこまで言っていないが、入居者ファーストの運営方針があるため、「入居者の要望」という方針を振り回し、実際は「職員ファースト」になってしまっているホームも少なくありません。

高級老人ホームが、最初に宣伝していたホームの運営方針を変えることは生半可なことではありません。
まず、経営側はホームの経営状況を職員にわかりやすく開示し、余分なサービスを行っていないかチェックしていくことが必要です。

一人一人の入居者の要望、実際提供しているサービスを照らし合わせ、職員が入居者をおもんばかって提供しているサービスを削減していきましょう。

介護保険は自助の精神です。
入居一時金を3千万円もらっていたとしても、一時金の償却月数の180か月で割ると17万円/月となります。
要介護3の入居者だと、月額利用料を勘案しても、介護保険収入の占める割合は4割近くになります。

介護保険のサービスに関しては、「自助」の精神が根本にあることを考慮し、自身でやれることは自身でやってもらいましょう。
何でもかんでも、お世話をするのが本当に本人の為になっているかを考える必要があるのではないでしょうか。

契約書に2:1と記載している場合、経営収支も2:1で考えている経営者がほとんど。
本当に必要のない余分なサービスを行っていないかを検証してみましょう。

ICT化による省力化を

次に考えたいのが、ICT化。高級老人ホームは、介護職員が多いため、ICT化が遅れているホームが多数あります。
日中、夜勤でICT化を推進することにより、省力化を図る必要があります。次回の介護保険改定で、特養や特定施設はICT化の条件付きで4:1になるのは明白。

高額な入居一時金により、多くの職員を抱えているからと言って、ICT化を行わないホームは時代遅れとなるでしょう。

一昔前は、職員配置が多いホームが評価されていましたが、今後はICT化の推進により、いかに少人数で良いサービスを提供できるかが、優良なホーム運営の指針となってくるのではないでしょうか?

こちらについても推進していくことをお勧めします。

有料老人ホーム業界、特に要介護の方を対象とするホームは日々進化しています。
介護保険だけでなく、訪問看護を活用し、医療保険で収入を上げるナーシング型ホーム。
パーキンソン患者を集中的に集め、ことらも訪問看護を使って医療保険収入を得ているホーム。
共生化を掲げ、障害給付を併用して収入を上げるホーム。
セラピストを多く配置し、リハビリに特化したホーム。認知症対応に特化したホーム。

中、低価格で特殊なサービスに特化したホームが多数出てきているのが現状。

いつまでも「看板」に頼ったホーム運営では入居者が集まらなくなっています。
高級老人ホームの経営者も、これまでの運営方針に縛られず、変化をしていくことが必要な時代になってきました。

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この記事を書いたコラムニスト

佐久間信二 (さくましんじ)

介護事業研究所所長

昭和63年関西学院大学卒業
某大手企業の介護事業子会社の設立・運営に携わり、経営者として売上高20億円企業にまで成長させる
現在、個人で介護事業研究所を設立。個人の皆様に介護事業所の運営・経営に関し情報発信を実施。

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