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コロナ禍による稼働率の低下。「入居者は神様」で良いのか?

ここ数年のコロナ禍により、介護施設、特に有料老人ホームの入居率の低下が目立ち始めています。
特に大手のホームではその傾向が顕著。

本社営業の意向により稼働率向上のために、入居者への譲歩を優先し、普段なら入居をお断わりするような、過剰な要求を行う家族がいる入居者の入居も受付けなければならない状況。
「入居者家族の過剰な要求に耐えかね、退職したい」という職員。
「入居者は神様。要望に応え、支持されないと空室が埋まらない」という営業。
両者に挟まれ胃の痛い思いをしている施設長が多いはず。

それでは、どうすれば施設長として両者の主張の溝を埋めることが出来るのか?
今回は、「絶対に転倒させないで」という家族の無理な要求に対して、施設長の取るべき対応について説明していきます。

パーキンソン病症候群で睡眠導入剤を服用している入居者の家族への対応

あるホームでの出来事。入居者は自宅で転倒し、左脚を骨折、人工骨頭置換術を実施。1人暮らしで自宅での生活は続けられないと長女が判断し、同ホームへ入居を決めたそう。

長女は過度に転倒を恐れ、入居日に施設幹部を集め「転倒による骨折は絶対に起こさないでください。場合により、治療代の請求は損害賠償を行います。介護職員は見守りをしっかり行い転倒しないように介護して欲しい。これは入居前に本社の営業の方の同意を得ています。」と言い放ったよう。

入居者本人はパーキンソン症候群の上、睡眠導入剤を服用中。職員間では、「特に夜間のトイレ時の対応が不安。」との意見。
施設長は、長女の意見を尊重し、入居者の転倒防止を中心とした介護フォーメーションを組むよう職員に指示。結果、他の入居者への介護支援が削られ、職員の多くの労力がこの入居者に注がれたよう。

長女さんも毎日来所。職員に対しあれこれ指示を行い続け、結果、職員の心身の負担が増大していきました。

介護保険制度の基本は「自助、互助、共助、公助」

数か月後には、施設長への反発から数名の介護職員の退職願いが提出されました。

この退職願については、施設長の説得により保留されたものの、対策を打たないと再度、退職願が提出されるのはもちろん、他の入居者も対応不足による不利益を被っており、この状況は看過できないと施設長は決断しました。

まず本社の営業部門、管理部門(コンプライアンス担当部署)と協議し、本社営業の立ち合いの元、長女と協議の場を持つことにしたよう。

施設長からは「ホームは集団生活の場。1人の入居者に職員が関わる時間は限られていることを理解して欲しい。」と説明。
「介護保険制度は自助、互助、共助、公助で成り立っていることを理解して欲しい。有料老人ホームは、その経営の半分以上は公的介護保険料で成り立っている。当ホームも介護保険制度の特定施設というサービスメニューの許認可を受けており、保険制度で規定されている人的基準を上回る職員配置を行っています。現状のサービスレベルを継続していくことは難しい。」とお話しました。

長女は終始不満げな表情だったそうですが、入居者自身がホームでの生活を大変気に入っていることや、友達が出来たこと等を考えると、結果的にホームに入居したことは良かったことだと判断し、施設長の要望を受け入れたそうです。

今いる職員で出来うる最良のサービスを提供することが大切

会社の入居率の目標をクリアすることは大切なこと。施設長も入居者確保を優先し、入居者や家族の言いなりになる傾向が見受けられます。

有料老人ホームの場合、全入居者に対し全体最適なサービス提供が優先事項だと思われます。
入居者や家族の無理な要求には毅然とした態度で「NO」を突き付けることも必要。 
今回の事例では、職員の普段の努力が、物言う家族に対し響いていたのが解決の原因になったと思われます。

施設長は職員を信じ、無理な要求に対し「NO」という姿勢も必要。
また、施設長だけでなく、会社全体でホームを守るという姿勢も大切ではないでしょうか。

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