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全サービスに虐待防止取組みの強化を義務化 高齢者虐待はゼロにできるのか

2021年の介護報酬改定では、高齢者の虐待防止に対する取り組みの強化が盛り込まれました。
具体的には「全ての介護サービス事業者を対象に、利用者の人権の擁護、虐待の防止等の観点から、虐待の発生・再発を防止するための委員会の開催、指針の整備、研修の実施、担当者を定めることを義務づける」としています。
これには3年間の経過措置期間が設けられています。

虐待件数 20年度は前年比減

昨年末に、厚生労働省が発表した、2020年度の高齢者虐待に関する調査結果によると、「介護事業所従事者による虐待ではないか」と各自治体に相談・通報が寄せられた件数は2097件、そのうち虐待であると判断された件数は595件で、それぞれ前年度に比べ7.5%、7.6%減少しています。
2006年度以降、相談・通報件数、虐待判断件数ともにほぼ一貫して増加を続けて来ましたが、20年度は一転して減少しています。
これは、職員研修の実施など虐待防止に関する様々な取り組みが効果を発揮していると考えていいのでしょうか。

2020年度に各自治体に虐待に関する相談・通報を行った人は2390人います(1件の事例に対して複数者から相談・通報が寄せられるケースがあるため、相談・通報件数を上回っています)。
内訳は「当該施設職員」が最も多く26.7%、次いで「当該施設管理者等」が14.5%、「家族・親族」の13.9%となっています。

家族からの相談・通報が減少

この中で注目すべきは「家族・親族」で、19年度は全体の18.9%を占めていました。
20年度はそこから5.0ポイントも少なくなっています。
これは何を意味するのでしょうか?
20年度はコロナ禍で、多くの介護事業所で家族などの面会を禁止・大幅制限していました。
その結果、家族や親族が虐待に気づく件数が減少した、とは考えられないでしょうか。  

過去に家族が施設の居室内に仕掛けた隠しカメラで職員による身体的虐待が発覚したケースがあったように、家族・親族により施設が気づかなかった(あるいは施設が隠蔽しようとしていた)虐待が発覚するケースがあります。
入居者と家族・親族の接触が少なくなる中で、こうしたチェック機能がはたらかなくなっていることが考えられます。
また、「家族・親族の目が届かないから」と、虐待をする職員もいないとは限りません。
「前年度から減少しているから」と安心せず、こうしたときだからこそ虐待防止に注力していく必要があるでしょう。

虐待を生む組織風土はないか

虐待防止のためには、虐待の実態を詳しく分析することが重要です。
厚生労働省の調査では、虐待の発生要因の1位は「教育・知識・介護技術等に関する問題」。
以下「虐待を助長する組織風土や職員間の関係の悪さ、管理体制等」「職員のストレスや感情コントロールの問題」「倫理観や理念の欠如」「人員不足や人員配置の問題及び関連する多忙さ」となっています。
このように、大別して風土や就労環境などといった企業側の原因と、職員の知識や資質、性格など個人側の原因の2つがある以上、職員に対し「虐待をしてはいけません」「利用者の尊厳を守りましょう」といった意識付けの研修を行うだけでは、完全に虐待をなくすことはできません。

厚労省の調査によれば、虐待の事実が認められた595の事業所のうち、25.7%が過去に自治体より何らかの指導などを受けたことがあるそうです。
このように、虐待が起きる事業所は、もともと法令順守などの面で問題があるケースが少なくなりません。
例えば、パワーハラスメントや出入りの業者に対する横柄な態度などが日常的になってしまっていて、それが「弱い立場の人には何をしてもいい」と職員の意識に影響を与えている可能性はないでしょうか。
また、人手不足が深刻な介護現場では、職員が処分・処罰の対象になるような言動をしたとしても「退職されたら現場が回らなくなる」と不問に付してしまうケースも見受けられます。
こうした「甘さ」も、職員の「多少の虐待なら問題視されないだろう」という意識につながっていると思われます。
虐待云々に限らず、不法・不正を許さず、それを行った場合には厳しく対処する、と事業所自体が明確な態度を示すことが虐待防止の近道ではないでしょうか。

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