日本の病院経営について

医療と経営の分離

医療と経営は分離すべきです。

日本では、医師である院長が経営の最高責任者であるケースが大部分ですが、アメリカでは医療の責任者と経営の責任者が分離されていることが当たり前だそうです。

医療も一つの産業であるとすれば、取り扱う商品は命と健康であり、極めて責任の重いまた知的レベルの高い産業です。
安全管理や感染対策、提供する医療の質の担保には、非常に多くの専門知識と労力を必要とし、ある程度の規模の病院になってくれば、それらの診療の統括者である院長の管理スパンはかなり広く、また深いものが求められます。このような診療の統括と経営の統括を一人の人間が担うのは実際上困難でしょう。

企業の例で考えると、メーカーのような技術の会社でも技術畑が社長になるとは限らず事務職が社長になることも多くあります。
医療も一つの技術とみるならば、また、病院の経営という部分に重きを置くならば、事務職が経営の責任者となる例がもっと生まれてもしかるべきです。

ただし、事務職には今まで以上に医療に対する幅広い知識と深い理解が要求されます。
また、自分がこの病院を担うのだという気概と責任感が必要なのは言うもでもありせん。
事務職が医療のことをよく勉強し医療従事者にレスペクトの気持ちを持つこと、地べたを這ってでも収入を増やし、薬代を値切り、クレームを恐れず、医療従事者に頼りにされる、そういう事務職が多くいる病院ほど経営は安定するはずです。

してはいけないこと

もし、あなたの病院の経営が苦しいならば、まずは、費用を減らすことばかりを考えないでください。

費用の中で、主なものは人件費ですが、これをケチってはいけません。
一般に医師一人で1億円以上は稼ぎます。医師の賞与や給与をカットしてつぶれた病院は多くありますが、医師が多すぎてつぶれたという話は聞いたことがありません。

医師以外の医療従事者もそうです。
コメディカルが潤沢でアクテビティが高い病院には医師が多く集まります。
それは、医師が医師でなければできない仕事、その専門性をよりよく発揮できるからです。
そのことが医師の生産性を高めることは言うまでもありません。

たとえば、医師事務補助をするクラークの配置です。
診療報酬でクラークの人件費がペイできないから増やさないとい考え方もありますが、必要ならば少しぐらい余分にクラークを配置することが、医師の生産性をさらに高めるのです。
ただし、その医師が本当に稼いでくれるのかどうか見極める必要はありますが。

病院は極めて知的レベルの高い労働集約産業です。
人件費をケチってはいけません。
人件費は費用ではなく資本ととらえて、より多くの収入を効率よく生み出すように戦略を考えるべきです。

病院の質の向上と業務のイノベーション

経営改善の基盤となるのは、安全管理・感染対策をはじめ病院の質が普段に向上していること、業務が効率的に行われていることですが、このことに意外に文書管理が大きくかかわっています。
例えば、皆さんの病院にこんなことはないでしょうか。
・病棟によって穿刺のマニュアルが異なる。
・新任看護師の教育マニュアルが改定されていたのに周知されていなかった。
・点滴の量を間違えた看護師に看護師長がマニュアルは見ていたのと叱責したが、マニュアルがなかった
・〇〇委員会で〇〇療法の手順書を改定したが、医師は「そんなことは聞いていない」と自分のやり方を押し通す
・保健所の監査のたびごとに書類がそろわない、適時調査が2年に1回になると心配。

私は、これらの問題の根本は文書管理のまずさだと思います。業務を文字にあらわしたもの、可視化したものが文書です。
文書がしっかり管理されているからこそ、業務改善の実も上がるのです。あるマニュアルを改定するといっても、前のマニュアルがしっかり残っていなければ何を改善したのか、どれだけよくなったのかもわかりません。
業務改善のPDCAのサイクルを回していくためには、標準となる文書をしっかり管理し、必要な人に知らしめておくことが必要です。

また、オフィスワーカーの仕事の20%は文書・データの検索や整理に充てられていると一般的に言われています。
ここでいうオフィスワーカーというのは、病院では事務職と医療従事者でも直接診療に従事せず管理・研究的な仕事に従事する人・またはその時間を指します。

文書管理をしっかり行うと、これらの人の文書の検索や整理の時間が半減します。
つまり文書管理をすることによって、オフィスワーカーの労働時間の20%が半分になって、労働生産性が1割向上するわけです。文書管理は働き方改革の大きな武器になります。

病院の質の向上と業務改善には、文書管理のしくみを作りあげ、組織的に行っていくことが必要です。また、そのことが病院のガバナンスを確立することにつながります。

マーケットの変化に前向きに

医療のマーケットの多くの部分は国が作り出します。
2年に一度の診療報酬改定で商品の品質と価格がきまり、「地域包括ケアシステムの構築」「地域医療構想の実現」という形で、2025年あるいは2040年という中長期的なマーケットの動向が示されるのです。

経営者にとってマーケットの動向が文字にされて明確になるのですから、こんなに有難い話はありません。

まずは、診療報酬改定、新しくついた点数はとれるものは皆とりましょう。
「厚生労働省はどうせ梯子を外すのだから」などと批評家のような態度をとってはいけません。

マーケットは変わるのが当たり前です。
とくに加算や指導料は「真水の利益」になることがほとんどです。
とれるときにとらなければ、いつまでたっても診療単価はあがりません。
梯子が外されたならば、次の梯子があるはずですから、それを登りましょう。

最も大事なのは、中長期的なビジョンを持つことです。
これもマーケットの将来を厚生労働省が示してくれているのですから、あとは自院の強みと地域の動向をしっかりと見据えて、ビジョン・戦略を策定することです。

診療報酬制度、医療制度自体が前例のない方向に向かっていくなかで、自院のできること・求められていることをしっかりと見極めながら、未来への生き残りにかけて、変化を恐れず前例のないことにチャレンジする姿勢が何よりも大切です。

この記事を書いたコラムニスト

岡本有 (オカモト ユウ)

前関西電力病院事務局長

病院経営

関西電力入社後、労務畑を経て関西電力病院に14年間あまり勤務。
診療報酬制度をはじめ病院経営のことについて一から勉強し、診療情報管理士の資格取得。
着任時大きな赤字を抱えていた病院を、退職時には黒字体質に変換。
黒字化を前提に、築40年の老朽病院の建て替えという一大イベントにも携わり成功に導く。
関西電力病院退任後、㈱関西レコードマネジメント代表取締役社長に就任、経営改善に尽力。
病院経営改善に従事した経験、また、企業人、経営者としての経験をいかした、企業経営の観点にもとづいた実戦的な病院経営支援を実施します。

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