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介護業界に「特別最低賃金」導入か 処遇改善効果はどこまで期待できる?

 福岡厚生労働大臣が2025年3月22日、「『特定最低賃金』を介護職に導入することを検討する」とコメントしました。
 
 このニュースについては、本コラム執筆時点(3月25日)で続報が無く、情報があまりないのですが、これにより介護業界にどのような影響が出る可能性があるのか、という点を検証してみます。

 言うまでもないことかとは思いますが、日本では法律により最低賃金が定められており、人を募集・雇用する際にはこの賃金以上であることが求められます。

 仮に労使間で合意して、最低賃金額以下の賃金を定めたとしても、法的にはそれは無効とされ、最低賃金額と同額賃金で合意したとみなされます。

 具体的な最低賃金額は、物価や経済状況などをもとに各都道府県が決めています。

 一般的に大都市圏ほど高く、大阪府の最低賃金は時給1114円です。2024年10月1日にこれまでより50円引き上げられました。なお、2001年までは最低日給額も決められていましたが、こちらは現在では廃止されています。

 そして、最低賃金には、こうした地域別最低賃金のほかに、業種を限定して最低賃金を設定することがあります。

 これを特定最低賃金といいます。

 例えば、肉体的な負担が大きい業種、危険を伴う業種などが対象です。

 現在、地域を問わずに全国で特定最低賃金が適用されているのは各種鉱山の鉱内作業従事者だけです。

 ただし、それ以外の業種についても都道府県が独自に設定することができます。例えば大阪府では、塗料製造業や鉄鋼業、自動車販売業などが対象です。

 冒頭の厚生労働大臣の発言は、これを介護職にも適用しようというものです。

 もし、そうなれば、介護職の最低賃金は地域別の最低賃金を上回ることになりますので、就労者の増加につながることが期待できます。

 しかし、それに伴って介護報酬もあがらなければ、介護事業者にとっては単に人件費だけがあがる形になり、経営を圧迫します。

 水道光熱費や食材費の値上がりなどで運営コストが増加する中で、特定最低賃金が導入されるのは、ありがたい話とは言えません。

 また、いわゆる「年収103万円の壁」の問題もあります。

 時給があがればその分壁を突破してしまう可能性が高くなりますから、働く時間を短くして年収を調整するスタッフが出てきます。シフトを組むのに苦労する介護事業所は増えるでしょう。

 昨年の総選挙では「103万円の壁の見直し」がテーマになりましたが、これを結局どうするのかについては、まだ結論が出ていません。

 パート主婦などの比率が高く、かつ就労者数の多い介護業界に特定最低賃金を導入するのであれば、この点についても早急に決着をつけてもらいたいものです。

 また、仮に特定最低賃金を導入したとしても、介護職の処遇改善としては不十分との声もあります。

 介護職の所得水準については様々なデータがありますが、厚生労働省の令和4年度賃金構造基本統計調査によれば年収で363万円弱となっており全産業平均年収を約80万円下回っています。

 これを最低賃金の引き上げだけで埋めようとすると1日3300円以上給与を上げなくては行けません(月20日勤務の場合)。8時間勤務なら時給400円以上のプラスです。

 いくら「特別最低賃金」といっても地域別最低賃金に比べるといささか高すぎます。現実的に、他産業から人を引っ張ってこられるだけの魅力ある最低賃金額になるかどうかは疑問です。

 このように、特別最低賃金の導入は、そのままでは介護業界にとっても大きなプラスが期待できないのが現実です。しかし、大臣が発言した以上何らかの形で導入が進むことは十分に考えられます。

 それに合わせてどのような施策が行われるのか注視していく必要があるでしょう。


介護の三ツ星コンシェルジュ

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