古くて新しい宗教と介護の結びつき 傾聴者としての宗教家の魅力とは
医療・介護・福祉関係者などが連携して、地域住民の健康づくりや見守りなどのために活動する仕組み「多職種連携ネットワーク」が全国各地で設けられています。その中に、僧侶や牧師などといった宗教者が関わるモデルが注目を集めています。関係者によると、こうした体制を「看宗医福」と呼ぶそうです。
もともと寺や教会などといった宗教施設は、貧困者救済を行うなど、福祉との関連性が強いものでした。実際に宗教法人や宗教関連団体が介護・福祉施設を運営しているケースも少なくありません。しかし「看宗医福」とは、こうした「団体」としてではなく、宗教者が「一個人」として、宗教や宗派の枠を超えて地域と関わるのが特徴です。
また、こうした活動をする宗教者を「臨床宗教師」と呼び、2016年にはその活動促進を目的にした一般社団法人も設立されています。
では、宗教者が多職種連携ネットワークをはじめとする介護に関わることには、どのようなメリットがあるのでしょうか。
医療・介護・福祉は全て「『相手が困っていることは何か』をしっかりと聞く」から始まると言ってもいいでしょう。それにより「自分たちはこの人のために何をなすべきか」がわかりますし、相談者にとっては、困り事や心配事などを話すこと自体が心の安定などにつながります。しかし、この場合には「話を聞く側の熱量が高くない」ということがポイントになるそうです。あまり「私が助けてあげる」といった姿勢を強く見せてしまうと、相談者はかえって「この人の親切さには何か裏があるのではないだろうか」と警戒し、心を閉ざしてしまうこともあります。
それに対して、宗教関係者はどうでしょうか。「感情を表に出さない」「いつも落ち着いている」というイメージを持っている人が多いのではないでしょうか。こうした、何事に対しても一定の距離をとった態度が「場を『ほぐす』力になる」と、臨床宗教師である僧侶は語ります。
また、その地域ならではの信仰心などに基づく支援・寄り添いが可能なのも宗教者の大きな強みとも言えます。
例えば、東日本大震災の被災地で、累計400回以上も移動式の傾聴カフェを運営してきた僧侶によると、三陸地方は「位牌」を非常に大事にする人が多い地域であり、被災者の中には「家から位牌を持ち出せずに、自分だけが助かってしまった」という罪悪感を今でも持ち続けている人も少なくないそうです。こうしたデリケートな事情を知らないままだと、いくら福祉や心理学の専門家がその人に寄り添って話を聞こうとしても、相手は心を開いてくれないことも多いとか。
これまで、運営者が宗教関係者の場合はともかく、一般の介護事業所を宗教者が訪れるケースはそれほど多くありませんでした。どうしても「宗教家=死・葬儀」のイメージが強いことが原因としてあげられます。
また、「関わったら信仰を勧められるのではないか」という警戒心もあったと思います。しかし、ここまで述べてきたように、純粋な「傾聴者」として、布教活動とは全く切り離して活動する宗教者も増えてきています。新型コロナウィルスの脅威ははまだ完全に消えたわけではありませんが、利用者・家族、そしてスタッフの心を「ちょっとホッとさせる」ことを目的に、宗教者の力を借りてみてはどうでしょうか。
ちなみに、文中で紹介した僧侶による移動式の傾聴カフェは、現在では全国13の運営者が様々な方式で運営しています。その中には、病院や介護施設の空きスペースを活用して定期的に開催されるものもあるそうです。