問題解決ストーリー「資産家の母の老後資金が引き出せない」
問題編:認知症になったら、どんな資産家でも預金を引き出せなくなるのでしょうか
税理士の吉岡潤は、資産家の長女、鈴木さん(仮名)から、至急の相談があると呼び出された。
「私の古い友人で、山田さんという人がいるのです」
その山田さんから、こんな話を聞いたそうだ。
山田さんは結婚30年。隣町の実家には、母親が1人で住んでいる。
弟は都会に出てしまい、身の回りの世話は山田さんがしていた。
母親は資産家で、郊外に緑に囲まれた賃貸不動産を所有しており、その帳簿作成なども山田さんの仕事になっていた。
時が経過するにつれ、母親は言ったことを忘れたり、不動産業者の方とのやり取りがおぼつかなくなってきた。一緒に医療機関へ行ったところ、認知症であると診断された。
口座に十分なお金があっても、手を付けることができません
意思能力がなく1人で生活することは困難なので、やむなく施設に入所させることにした。
毎月かなりの支出になるが、これまで貯めてきた家賃収入があるので心配はない。
山田さんは金融機関に出向いた。
「ご本人様ですか?」
「いえ、母の代理で参りました」
本人でないことを正直に伝え、母の経緯を丁寧に説明した。
「少々お待ちください」
担当者は奥に行って、上司らしき人と相談している。
戻ってくると、申し訳なさそうに言われた。
「ご本人ではないので、お取り扱いできません」
「どういうことですか、母が自分のために使うお金なんですよ?」
「お取り扱いできません、そういうルールになっているのです」
どうすることもできず、その日は一旦、帰宅するしかなかった。
さらに困ったことになった。
母親の所有する賃貸不動産について、入居者の退去に伴う修繕費の支払い請求が来たのである。
再び、金融機関に出向いた。別の担当者からも、同じことを言われた。
「ご本人様でないので、お取り扱いできません」
結局、山田さんは、母親の口座から振り込むことも引き出すことも、できなかったのである。
口座には、十分なお金がある。しかし、それに手を付けることができない。
仕方なく山田さんは、弟さんと話し合って必要なお金を工面した。
解決編:さまざまな対策も、柔軟に設計できる「家族信託」
この話を聞いた鈴木さんは、矢も盾もたまらず、顧問税理士の吉岡に相談した。
実は鈴木さんのご両親もご高齢で、最近、物忘れが多くなってきた。「対岸の火事」では済まされない話だったのだ。
吉岡は、「家族信託」の活用を提案。
説明を聞いた鈴木さんは、すぐに興味を持ち、ご両親の預金を鈴木さん名義に変更した。
受託者として信託のルールに基づいて、両親の通帳を管理することにしたのである。
(民法等の改正により、今後、取り扱いが変わる可能性もあります。専門家に個別具体的にご相談の上、ご判断ください)
専門家に相談する前に知っておきたい、家族信託の活用手法
解決編で、税理士 吉岡が提案した「家族信託」の活用。
事業承継対策というと、これまで財産分割や相続税の納税資金対策といった「財産」に関する対策が大半でした。しかし現実には、財産だけでは解決できない問題にしばしばぶつかります。
そのような場合に、家族信託はさまざまな対策を柔軟に設計できます。
「専門家に相談する前に知っておきたい、家族信託の活用手法」を、事例を用いてわかりやすくハンドブックにまとめました。
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