高齢者の病気・疾患

緩和ケア病棟ってどんなところ?④

緩和ケア病棟ってどんなところ?④

「医師×福祉×経営」で感じたことを発信します、レギュラーコラムニストの柏木です。今回で緩和ケア病棟について、一旦終了します。
今回は少し緩和ケア病棟に限らず、医療との付き合い方も含めた内容になってます。

長く入院できるのが良い病院?

前回、少しだけ触れました、「できるだけ長く入院できますか?」問題です。
もっというと、様々な理由により自宅で過ごす困難さがある場合、入院させておいてもらえたらいいのに・・・という話です。
もちろん、医学的な入院の必要性が高い場合に、無理に退院させるなんてことは通常ありません。


皆さんは実際に経験があるかどうかわかりませんが、私が実際に相談を受けたことがあるのは、
・私(家族)は仕事があるので、家は無理です。入院させておいてください。
・自宅にはクーラーがなく、すごく暑いので秋まで入院させておいてください(今は6月)
・自宅にはストーブしかなく、寒いので暖かくなるまで入院させておいてください(今は11月)
・子供に介護してもらうのは迷惑をかけるので、入院させておいてください。
みたいな感じでしょうか?

医療施設の福祉的機能

これらを聞いて、皆さんがどう感じるか?
かつて、我が国の高齢者医療では、医療が介護や福祉的な機能を肩代わりしてきた背景があります。
もう何年も入院しているような方がずらっと並ぶような光景も実際にありました。
ただ、現在では入院はあくまでも入院が必要な状況に対する支援制度ですので、上で述べたような介護や住宅環境の話を解決する手段としては活用できません。
その一方で、明確な罰則があったりするわけでなく、金銭的な自己負担費用も入院していた方が少ないこともあります。
もちろん、そういった医療的な入院の必要性が低い方が入院している病院は収益は下がっていきますし、社会保障費の医療費はしっかり使うので国民の借金は次世代に増えていく構図になります。

入院の必要性がない場合での入院はデメリットが大きい

ただ、私が伝えたいのはそう言った国レベルの話や病院の都合の話ではなく、医療的に入院の必要性が低い場合に入院していることは、本人にとってもデメリットが大きいということです。
繰り返しますが、病院というのは介護施設ではないので、必ずしも長期的に介護を支える体制になっていないのです(緩和ケア病棟であっても)。
ちょっとしたことはもちろんできますが、長期的に介護を支援するという観点では圧倒的に介護施設に軍配が上がります。
そもそも、医療機関なので、医療的な対応が得意なスタッフ(医師・看護師)が多く配置され、彼らの対応の優先順位も当然のことながら医療的な内容になります。

ケアのあるべき姿

例えば、介護施設で入浴を何週間もしていない・・・なんてことはまずないですよね。
でも、病院だと、病気の状況としては入浴ができる状況であっても、入浴を介助するためのスタッフが足りなかったり、他の重症患者の対応が必要な時には入浴は後回しになります。
その結果、病状としては入浴ができるのに、実際には入浴すらできないという状況が生まれるのです。
これって、本人にとって良い光景でしょうか?
前述のように罰則規定などはなく、医療資源などを活用する人の良心に基づいた我が国の制度ですので、この光景を強制力を使って変えることは現場の医師にはできません。
ただ、もし病状が許すなら、入院しているよりももっと過ごしたい場所で、質の高いケアを受けられる場で過ごしてもらいたいと思いますし、その実現のためのサポートをしたいと思っています。

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この記事を書いたコラムニスト

柏木 秀行 (カシワギ ヒデユキ)

医師・社会福祉士・経営学修士

1981年広島県呉市に生まれる。筑波大学医学専門学群を卒業後、福岡の飯塚病院に初期研修医として就職。救急、感染症、集中治療などを中心に研修を行った。地域医療を支える小規模病院に出向した際、医療経営と地域のヘルスケアシステムづくりをできる人材になりたいと感じ、グロービス経営大学院で経営学修士を取得。また、社会保障制度のあるべき姿の観点を、研修医教育に取り入れたいと感じ社会福祉士を取得し育成に取り組む。現在は飯塚病院緩和ケア科部長として部門の運営と教育を行いながら、診療所の経営コンサルトをオフタイムに兼任。緩和医療専門医、総合内科専門医、プライマリ・ケア認定医・指導医。

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