介護ケアを豊かにする色づかいのヒント
色のチカラがケアを変える~色彩は生活環境の一部~
初めまして。一般社団法人日本ユニバーサルカラー協会代表理事の南 涼子です。
カラーコンサルタントとして「介護・医療分野の色」を専門としている私は、介護、医療環境やそれらに関する製品の色彩デザイン、監修を15年以上前から行っております。
普段それほど意識されることはないかもしれませんが、私達は身の回りの情報の約9割近くを視覚(色や形など)から得ています。しかし、60歳以上になると全体的な視力の低下に加え、白内障をはじめとする様々な視覚障害を抱える割合が高くなります。
同様に色彩の区別もつきにくくなり、それが原因で転倒事故につながるケースも少なくありません。
視力が弱り色の区別がつきにくくなることは、十分な情報を得られないのと同じです。日常に不安感が生まれると、日常生活への意欲や積極性も失われがちになります。
ホームに入居しているお年寄りであれば身体機能の低下などの要因から、環境からの影響を受けやすくなるため、色は安全面や利便性、快適性に大きく関わってきます。
最近では色が精神的、生理的側面に影響を与えることも明らかになっています。
色は人間の情緒にはたらきかけを行い、ひいてはその行動にも影響を与えています。
色の効果はこれまで、様々な商品、広告、ファッション、インテリアなど多くの分野で活用されるようになりましたが、近年医療や福祉現場における色彩の活用も注目を浴びるようになっています。
身近な例としては看護師の制服の色です。白一辺倒だった制服が、最近ではピンク、明るいブルー、グリーンなどバラエティ豊かになっています。優しく淡い色は、不安を抱えた患者さんの不安を和らげるのに役立っています。
高齢者施設も以前は白い色が多く使われていましたが、収容所を連想させるような色使いは見た目に寒々しく、精神衛生上とても良い影響を与えません。そうした環境は、心理的な不安を増殖させるだけでなく単調で刺激にも欠けるため認知症を発症させたり進行させたりすることがあります。
色に乏しい環境は感情や思考さえも鈍化させてしまうのです。
反対に美しい色彩や気分を和ませる優しい色に囲まれていれば、心は健やかに保たれやすく、気分の活性化に大変役立ちます。色は健康で快適な生活を送るうえで必要不可欠の要素なのです。
最近の実験では色は見るだけでなく、皮膚でも感じ取れることがわかっています。たとえ目隠しをしていたとしても皮膚は色光に反応して筋肉を緊張させたり弛緩させたりするのです。
ストレスを軽減して、快適を実現する色の効果
色は私達の認知、感じ方と感情に強い影響を与えるため、介護ケア環境、現場においては以下の事柄を可能にします。
1.利用者に視覚的なわかりやすさを与え、安全性を高める
2.居住空間の快適性を高め心身の健康をサポートする
3.利用者との円滑なコミュニケーション
4.物理的なマイナス面を軽減する
5.適切な色彩を用いることで認知症などに伴う不穏を軽減する
6.衣食住の充実とアクティビティへの応用
7.職場環境の改善、介護スタッフの心理的負担の軽減
色は環境の欠点を補い、ストレスを軽減する効果があります。
暗い部屋を明るくしたり、湿度の感覚を調整したりすることもできます。
また色によって温度感覚を快適に感じさせ、気になる臭いを感じさせにくくするセラピー効果もあります。
そうした意味で、私はケア環境において色を適切に配置することは、高齢社会をより良く豊かにするための支援のひとつであると考えています。
次回のコラムからは、実際の事例や色づかいのヒント、色の具体的な効果、その他シニア世代が元気になる色づかいなどについてもう少し詳しくご紹介して行きたいと思います。