相続・終活の事前準備

任意後見の概要

今回コラムの説明

司法書士の勝猛一(カツタケヒト)です。
司法書士として登記業務以外に日々、成年後見の業務に携わっています。

今回は、まず、任意後見制度の概要から、任意後見契約の当事者の義務について、法定後見制度との比較内容、監督人制度の概要、任意後見契約締結上のルール、任意後見制度の根拠となる法律の説明という順番で、任意後見制度をみていきたいと思います。

任意後見制度の概要

 任意後見は、本人の判断能力がしっかりしている間に受任者を決めて契約しておきます。そして将来、本人が認知症などで判断能力が衰えた場合に契約を発効させます。契約で決めていた内容の財産管理や法律行為を、受任者が任意後見人となって行います。ただし、本人は、判断能力が衰えているので、後見人の仕事を監督することはできません。そこで、裁判所が監督人を選任して、その監督のもとで任意後見の業務を行うことになります。
 自分がしっかりしているときに契約しておいて、いざという時に任意後見が発効する。任意後見とは、いわゆる「頭の保険」なのです。

契約の当事者

 任意後見契約の当事者である本人は、契約時には、判断能力が必要です。そのため先天的に判断能力を欠いている人は、法定後見を利用することになります。(法定後見制度の詳細は別の機会に説明いたします。)
 もう一方の契約当事者は、任意後見人(契約の時点では受任者)です。任意後見人は、契約で定めた範囲内で、本人の生活や療養看護、財産管理などを「本人を代理」して行います。代理権という法的サービスが業務の中心です。そのため介護のような直接的な事実行為は、業務の範囲ではありません

受任者の多くは、本人の親族または友人や知人です。受任者全体のおおむね7程度を親族等が占めていると言われます。自分の信頼する個人や法人に委任するのですから本人の親族や知人・友人の割合が高くなるのは当然です。
 
 ただし、誰でも自由に決めて良いからといって自分より年上を受任者にするのは避けて下さい。自分が認知症になった時には、受任者も認知症になっていたり、死亡しているかもしれません。少なくとも10歳以上は年下が良いでしょう。

法定後見との比較

 これと比較して欲しいのが、裁判所が選任権限をもつ法定後見です。
裁判所が親族を後見人に選任する割合は、3割を切っています。この点は、任意後見と法定後見との大きな違いです。

 法定後見は、すでに判断能力が衰えた人のために、後見人の選任を裁判所に申立する制度です。
申立ができるのは、原則として四親等内の親族です。そのため、本人に四親等内の親族がいない場合や、親族に信頼する者がいない場合。あるいは、親族に迷惑をかけたくない、親族間に争いがあるという場合などは、申立をしてくれる人が「存在しない」ことになります。

 誰でも2分の1以上の確立で認知症になるのです。いわゆる「おひとり様」などの四親等内の親族のいない人は、親族以外の人と任意後見の契約をしておきましょう。だからこそ念のための「頭の保険」です。

監督人

 任意後見の監督人は、契約の当事者ではありません。しかし任意後見が発効する際に、裁判所から選任され後見人の事務を監督するのが仕事です。その監督した内容は、家庭裁判所に定期的に報告します。裁判所は監督人を通して、間接的に任意後見人が不正をしていないかを監督しているのです。そのため、裁判所が「監督人の選任をしたという審判」をすることで、任意後見の契約の効力が「発効する」という仕組みになっています。

 任意後見契約は、判断能力がしっかりしている間に契約します。その後判断能力が、衰えたら効力を発効させます。通常は、契約締結から効力発生までの期間は、わかりません。当然ですが、すべての人の判断能力が、不充分になるわけでもありません。そのため、判断能力が衰えて、初めて監督人の選任をすることになります。

公正証書と登記

 将来のことを考えて契約する任意後見という制度には、2つの大きなポイントがあります。契約の締結時点契約の発効時点です。
 第一のポイントは、契約を締結する時点で、本人の判断能力があるかどうかです。契約を締結する意思があるのか、契約をする能力があるのかを確認する必要があります。そのため公証人が関与して公正証書で作成しなさいという決まりがあります。

 任意後見契約は、本人確認と意思確認のために公正証書で作成しないといけないのです。公証人は任意後見の契約がされると、委任された代理権の内容を東京法務局の本局に登記申請することになっています。
 
第二のポイントは契約の発効の時です。本人の判断能力が不充分になっていることを確認するために医師の診断書の準備が必要です。それに加えて、家庭裁判所が関与した上で監督人を選任することになります。任意後見の登記がされていると、裁判所は法定後見人を選任しないという仕組みになっています。

法律

 任意後見は、「任意後見契約に関する法律」(任意後見法という。以下同じ)に定められています。一般法である民法を一部準用しています。
本人の意思表示ができる間に「本人の自己決定の尊重」と「本人の保護」との調和を図る観点からできた制度です。平成12年4月から運用がスタートしています。


勝司法書士法人
代表社員 勝猛一

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この記事を書いたコラムニスト

勝 猛一 (カツ タケヒト)

勝司法書士法人 代表社員

1966年  鹿児島県大島郡 徳之島に生まれる
1999年  司法書士登録
2000年   (公社)成年後見センター・リーガルサポート会員
2003年5月 勝 司法書士法人 設立(大阪・淀屋橋)
2003年7月 東京事務所  設置(東京・虎ノ門)
2009年1月 遺言・相続・成年後見セミナーをスタート
2013年  相続請負人「渡る世間は瀬戸際ばかり」(小説)出版
2017年9月 横浜事務所 設置
2018年3月 大阪市立大学大学院 修士課程終了

私達勝司法書士法人は「想いやり」のある行動を通じて人々の生活に貢献し、
「夢」をもって未来へ挑戦し続ける集団を目指します。

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