出張販売で買ったお菓子をスタッフが没収 「栄養バランス」「入居者の楽しみ」どちらが優先か
高齢者施設のレクリエーションの1つに、食品や衣服などの出張販売があります。
施設の入居者は自分で買い物をする機会がほとんどありません。月に1~2回でも、好みの商品を自分で選んで買うことは大きな楽しみであり、心身の刺激にもなることから、こうしたサービスを導入する施設も増えています。
先日、こうした出張販売を手掛ける事業者がSNSに「入居者がお菓子などの食べ物を購入すると、すぐに職員が取り上げてしまうことがある。理由は①医師などからの指示で食事制限をしている、②お菓子を食べてしまうと普段の食事の量が減ってしまう、というもの。 ときには取り上げられた入居者と施設のスタッフが言い争いをしていることもある。どうするのがベストなのだろうか」と、書き込みをしていました。
皆さんは、これについてどうお考えでしょうか。
職業などの立場によって意見は様々かと思いますが、私個人としては「お菓子ぐらい、好きに食べさせてあげればいいのではないか」と感じました。
1つ目の理由はもっともです。
しかし「強いアレルギーがあり、お菓子の摂取が直ちに命に係わる」といったレベルならばともかく、そうでなければ、そこまで神経質になる必要があるのでしょうか。
確かにお菓子は栄養学的にはあまり好ましいものではないかもしれません。若い頃に食べ過ぎると、将来生活習慣病を引き起こす一因になる可能性もあります。
しかし、要介護になり、高齢者施設に入居をしている人が、「健康のために」とお菓子を控えたからといって、今から10年も寿命が延びるとは思えません。
むしろ自分の口からものを食べることができる期間が残り少ないのですから、食べられるうちに好きなものを食べさせたほうがQOLは向上するのではないでしょうか。
2つ目の理由については、施設の食事をしっかりとることがそこまで大事なのでしょうか、というのが私の印象です(食品廃棄物を減らすなどの取り組みは別問題として)。
例えば、スタッフだって「今日は、ほかのスタッフの旅行の土産のお菓子を休憩中にたくさん食べたので、夕飯は軽くお茶漬けだけで済ます」などといったこともあるでしょう。
また多忙であれば、食事を抜くこともあるかもしれません。もちろん、栄養学的には「バランスの良い食事」を「1日3回決まった時間」に「適切な量」をとることが望ましいことは確かです。
しかし、それを自分の裁量で変えられることが「自由な生活」の条件の1つとも言えます。
近年、高齢者住宅を取材していると「うちは、『老人ホーム』ではなく『家』です」と口にする運営者が増えています。
しかし、そう言っておきながら、こと入居者の食事については管理したがるホームが少なくありません。そのように一から十まで管理された食生活が強いられる場所が、果たして「家」と呼べるのでしょうか。
日本にハンバーガーチェーンが誕生して50年以上、インスタントラーメンが誕生して60年以上になります。
つまり、現在介護サービスを利用している年齢であれば、20代の頃からそうしたものを日常的に口にしていたと思われます。
そうした食生活を続けてきた人が、結果として80代・90代まで長生きをしていることを考えると、高齢者施設の食事において、栄養バランスや摂取量について果たしてそこまで神経質になる必要あるのだろうか、と考えます。
少ない年金額をやりくりして、出張販売店から好きなお菓子を買った入居者は、その日の夜に亡くなってしまうかもしれません。
その人の最後の記憶が「買ったお菓子をスタッフに取り上げられたこと」だったとしたら、あまりにも悲しい話です。
介護の三ツ星コンシェルジュ