日本の介護事業者の海外展開を考える① 中国では「認知症ケア」のニーズ急増
新型コロナウイルス禍が一段落したことにより、日本の介護業界と海外との結びつきが再び活発になってきています。
そうした状況を受け2024年8月に「アフターコロナ 介護事業者の海外展開」と題した座談会が東京で開催されました。その様子を2回に分けてお届けします。
登壇したのは、海外人材の活用に積極的なツクイの佐藤園子海外人材部長、実際に中国で介護事業を展開しているメディカル・ケア・サービスの王思薇取締役、先日韓国最大の金融グループKBFG及びその介護会社と包括提携協定を結んだSOMPOケアの迫田満事業開発部海外戦略室長。
そして経済産業省商務・サービスグループヘルスケア産業課の水口怜斉課長補佐の4名です。
さて、今から10年以上前になりますが、日本の介護事業者が盛んに中国へ進出する動きを見せていました。
「日本の人口の約10倍という巨大マーケット」「1人っ子政策による少子化で、今後家族の介護力が低下することが予想される」「経済発展で介護サービスを利用できる中間層の増加が見込める」などが主な理由です。
しかし、現在ではあまり中国が話題になることはありません。中国の現状はどうなっているのでしょうか。また、日本の介護事業者がそこに進出するメリット、逆に注意すべき点としてはどのようなものがあるのでしょうか。
これらについて、現在中国で8施設、約1000床を展開するメディカル・ケア・サービスの王取締役は以下のようにコメントしました。
「日本の介護のノウハウは、海外では重宝されている。しかし、中国では土地は国有であることが多いなど制約がある。外資企業が自力で展開するのには限界もあり現地企業との合弁を選択せざるを得ない。しかし、中国企業で介護に関して十分な知識やノウハウがあるところが少ないので『組み先』の選定が難しい」
「10年ぐらい前までは『外資企業』というだけで信頼され、提携話が多数持ち込まれたが、5年ぐらい前から潮目が変わったと実感している。中国企業もスキルアップして自分たちだけで出来るようになったこともあるが、中国人が元々飽きっぽい性格であることも一因ではないか」
このように、中国での事業展開は仕組みや制度の違いなどもあり、何かと難しい部分が多いようです。しかし、それでも中国のマーケットは魅力的なようです。
王取締役によれば、現在、特に認知症ケアに関するニーズが非常に高まっているとのこと。
中国では2~3年程前までは認知症の人は精神病院に入れるぐらいしかケアの方法がなく、認知症の人の推計人数などのデータもほとんど公にされていませんでした。それが現在では国が認知症施策を推進し、介護事業所に対して補助金を出すようになっているとのことです。
メディカル・ケア・サービスに対しても国から「認知症関連の施設を運営して欲しい」という依頼が寄せられているそうです。
今後も同社では中国での展開に力を入れていく考えで、2026年に3000床の運営を目指しています。
中国は、同じ漢字文化圏ということもあり、「話す」はともかく「読む」「書く」についてはお互いに言語を習得しやすいという利点がありますし、地理的にも近いというのは大きなメリットと言えます。
不動産バブルの崩壊など経済的成長にはやや陰りが出ていることも指摘されていますが、それを差し引いても日本の介護事業者の進出先として真っ先に候補に挙がる国と言えるのではないでしょうか。
次回も、この座談会の様子について紹介します。
介護の三ツ星コンシェルジュ