高齢者の病気・疾患

インフルエンザシーズン到来③

インフルエンザシーズン到来③

「医師×福祉×経営」で感じたことを発信します、レギュラーコラムニストの柏木です。
この原稿がアップされる頃には、インフルエンザもピークを過ぎているでしょうか?
季節ものとはいえ、年度末の忙しい時に毎年毎年・・・と小言の一つも言いたくなりますよね。

インフルエンザの治療

今回はインフルエンザの治療についてです。
 
一般的には中立的な立場で薬の話をするときは、特定の製薬企業の製造・販売している薬剤の広告にならないように、商品名でなく薬の成分自体の一般名で話します。
ただ、このコラムは医療者ではなく、一般の方々を対象としており、分かりにくくなってしまうので、あえて商品名でお話しします。
特定の製薬企業の販売促進などを意図したものではありませんので、その点は注意してご一読ください。

さて、前置きが長くなってしまいましたが、インフルエンザの治療と聞いて、何を思い浮かべますか?
タミフル®︎、イナビル®︎といった薬を思い浮かべると思います。
現在、インフルエンザに対して日本で使用できる薬剤は以下の通りです。

・オセルタミビルリン酸塩(商品名:タミフル等)
・ザナミビル水和物(商品名:リレンザ)
・ペラミビル水和物(商品名:ラピアクタ)
・ラニナミビルオクタン酸エステル水和物(商品名:イナビル)
・アマンタジン塩酸塩(商品名:シンメトレル等)(A型にのみ有効)
・バロキサビル マルボキシル(商品名:ゾフルーザ)

ここ十年くらいで使用できるようになった、新しい薬も含まれます。
特にゾフルーザ®︎と言う薬は、一番新しい薬で、テレビなどでも「1回の投与で良い新しい薬」と紹介されるのを目にしたことがある方も多いのではないでしょうか?

ただ、ここでお伝えしたいのは、「インフルエンザを発病したら必ずインフルエンザの薬を飲まなければならない」というわけではないということです。
前々回も述べましたが、普段健康な方であれば、インフルエンザは自然に治癒する病気です。
「とにかく薬を飲まないと・・・」という気持ちで自然治癒の期待できる患者が大量に押し寄せることで、さらなるインフルエンザの感染や、本当に重症の方に対応する病院の余力低下を引き起こします。
こういった観点から、普段健康な方はインフルエンザでの受診を控えてもらえないか?といった働きかけをする医療機関も出始めました。

「新しい薬はいい薬」?

新しい薬と聞くと、無条件で既存のものよりも良いように感じられますよね。
 
ここでご想像頂きたいのですが、テレビや冷蔵庫といった家電で、「新製品が出ました。なんと、以前よりも電気代がかかり、性能としてはちょっと落ちたものが、お値段そのまま!」なんてことはありませんよね。
我々は様々な経済活動の中で、「新しいものはいいものだ」という前提を無意識のうちに置いているように思います。

一方、医薬品に関しては、必ずしも「新しいものはいいもの」とはいえません。
その理由としてここで述べるのは2点です。
まず1点目は、「新しい薬が実際にどの程度安全に使用できるかどうかは、使ってみないとわからない」という理由があります。
もちろん、実際に患者に処方できるようになる前に、様々な厳しい調査を経て安全性を確認されています。
ただ、その後、多くの患者に使用することで初めて分かるよくない影響も、まああるのです。
実際、市場に出た後、ネガティブな側面がわかり生産中止となった薬剤もあります。
その点、既存の薬は使用経験が長い分、ある程度ネガティブな影響についても把握されています。

もう一つの理由は、特にインフルエンザなどの感染症の治療薬で議論になるところですが、「耐性化」の問題です。
ゾフルーザについても、「ゾフルーザに対して耐性を持ったインフルエンザウイルス」が話題になりました。
 
普段健康で、自然治癒が期待できる患者に対し、片っ端から新しい薬を処方していった結果、本当に重症の患者や、既存の薬に対する耐性のあるウイルスに感染した患者に使用しようと思った時には、すでにそのウイルスは新薬に耐性を持っていた・・・。
こんな光景を生むかもしれないと言う懸念です。
 

いりょうとの付き合い方

インフルエンザ一つを取っても、結構複雑に感じられたのではないでしょうか?
はい、その通りです。
 
そもそも複雑な問題なのですね。
実際には理屈だけでなく、心配な気持ちといった感情や、休みを取れない職場や育児の問題といった社会のあり方なども絡みます。
医療機関の経営の話題も関わるかもしれません。
なので、ちらっとインターネットで調べたくらいで、「医療機関との付き合い方が見えてくる」というようなものではないと思います。

そこで皆さんへのおすすめは、信頼できる医療者と、時々で良いので、医療との付き合い方を議論してほしいのです。
かかりつけの先生でも良いですし、市民公開講座のような場でも良いです。

インフルエンザはそう言う意味で、みなさんが当事者意識を持って医療現場の複雑な状況に触れ、うまく活用するためにはどうすれば良いか考えるのに最も良い教材と思います。

まとめ

3回にわたりインフルエンザの話題を取り扱ってきました。
次回以降、しばらくは新しい話題を思いつくままに発信していこうと思います。

編集部注:柏木先生のコラム掲載直前に、このようなニュースを目にしたので、リンクのみ掲載します。

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この記事を書いたコラムニスト

柏木 秀行 (カシワギ ヒデユキ)

医師・社会福祉士・経営学修士

1981年広島県呉市に生まれる。筑波大学医学専門学群を卒業後、福岡の飯塚病院に初期研修医として就職。救急、感染症、集中治療などを中心に研修を行った。地域医療を支える小規模病院に出向した際、医療経営と地域のヘルスケアシステムづくりをできる人材になりたいと感じ、グロービス経営大学院で経営学修士を取得。また、社会保障制度のあるべき姿の観点を、研修医教育に取り入れたいと感じ社会福祉士を取得し育成に取り組む。現在は飯塚病院緩和ケア科部長として部門の運営と教育を行いながら、診療所の経営コンサルトをオフタイムに兼任。緩和医療専門医、総合内科専門医、プライマリ・ケア認定医・指導医。

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