高齢者に多い悩み

高齢者虐待についての正しい知識③~虐待かもと思ったら~

虐待かもと思ったらどうすべき?

前回から時間が空いてしまいましたが,その間,私は自治体が行っている高齢者虐待についての会議に出席したり,施設従事者向けの虐待研修を行ったりしました。

会議や研修のなかでは,もっと早く対処できていれば・・・といった事例もたくさんあります。

そこで,今回は,前回までのコラムを基本として,虐待かもと思ったらどうすべきか,どのように虐待対応がされていくかという点をご説明したいと思います。
 

通報の必要性と通報義務

「これって虐待に当たるのか自信がない。」

「家族の人はこんなに頑張って介護しているのに,虐待なんて通報したらかわいそう」

「明らかに暴力を受けているのに,ご本人は誰にも言わないでという。ご本人の意思を尊重したほうがいいのかな。」

このような理由で,もしかして虐待かもと思っても誰にも言えていない方はいらっしゃいませんか。

しかし,以下の点から通報は必要です。

①発覚しにくい
◯本人からのSOS発信が難しいため
•身体能力の低下
•判断能力の低下
•無気力

◯人目に付かないところで進行するため
•家庭の中・施設の中
•地域から孤立した世帯

②早期発見の必要
そのまま放置してしまうと,
•身体的虐待の場合
 重篤な傷害・死亡に至ってしまう可能性が,
•経済的虐待・介護放棄の場合
 栄養失調・重度の褥瘡・病気の悪化・死亡という重大な結果を引き起こす可能性があります。

そのため,虐待は早期発見が大事なのです。

それでは通報義務は誰がどのような場合に負うのでしょうか。

まず,通報義務はすべての人が対象とされています。
「養護者による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した者」すべて
     (高齢者虐待防止法7条1項・2項)

「養介護施設従事者等による
     高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した者」すべて
 (高齢者虐待防止法21条1項~3項)

特に,施設の職員は通報努力義務ではなくて通報義務となっています。

どんなことを見つけたら通報すべきでしょうか?

虐待のサインはいろいろあります。
● 怒鳴り声・泣き声や大きな物音が聞こえる
● 高齢者が戸外に長時間放置されている
● 介護サービス利用がない,回数が減った
● 服が汚れている,排泄物の臭いがする
● あざや傷がある
● 無気力,おびえている
● 異常に痩せている
● お金の管理ができていない            ・・・などなど

どこに通報すればよいでしょうか。

〇区市町村の役所・役場の高齢担当課または,
〇地域包括支援センター(介護保険法で定められた, 地域住民の保健・福祉・医療の向上、虐待防止、介護予防マネジメントなどを総合的に行う機関)に通報してください。


通報したとき、何を話せばいいのでしょうか?

◯見聞きした事実をそのまま伝えてください。
 整理してから伝えることよりスピードが大事です。

職務上知り得た事実を通報してもご本人に対する守秘義務違反とならないのでしょうか?

◯守秘義務違反にはなりません。
 通報義務は守秘義務に優先します。問題ありません。
 【参照】
 ・高齢者虐待防止法7条3項(養護者による虐待の場合)
  刑法の秘密漏示罪の規定その他の守秘義務に関する法律の規定は、前二項の規定による通報をすることを妨げる    
  ものと解釈してはならない。
 ・高齢者虐待防止法21 条6項(施設内虐待の場合)
  刑法の秘密漏示罪の規定その他の守秘義務に関する法律の規定は、第一項から第三項までの規定による通報(虚  
  偽であるもの及び過失によるものを除く。次項において同じ。)をすることを妨げるものと解釈してはならな  
  い。

個人情報保護法上の義務と通報義務の関係は?

◯虐待の通報義務を妨げるものにはなりません。
【参照】
原則(個人情報保護法23条1項) 個人情報保護法は,「個人情報取扱事業者」が本人の同意なく本人の個人情報を第三者に提供することを禁じている
例外(同項各号)
 一  法令に基づく場合
 二  人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。
 三 略
 四 国の機関もしくは地方公共団体またはその委託を受      けた者が法令の定める事務を遂行することに対して協力する必要がある場合であって、本人の同意を得ることにより当該事務の遂行に支障を及ぼすおそれがあるとき。

通報したことが本人や家族に知られることになりませんか?

◯行政・地域包括には守秘義務があり,通報者の情報は絶対に漏らしません。
【参照】
高齢者虐待防止法8条・17条3項・24条
通報を受けた市町村・包括の職員は、
通報者を特定できる情報を漏らしてはならない

施設職員が通報すると施設を退職に追い込まれないでしょうか。

◯施設は不利益な取扱をしてはいけないことになっています。
【参照】
 高齢者虐待防止法21条7項
 通報したことを理由にして,解雇その他不利益な扱いは受けない
 

通報したらどうなるの?

虐待の通報があった場合,市は虐待対応の責務を負っています。

市は通報を受けると,①事実確認,②虐待の有無・緊急性の判断,③虐待要因の整理及び対応方針の決定・対応を行い,④対応評価・再発防止の検討を行います。

具体的には,虐待と認定した場合には,養護者による虐待の場合には,被虐待者を施設に入所させて同居者と分離措置や面会制限などを必要に応じて行ったり,成年後見人等選任の申立てを行うなど対応します。
また同時に養護者による虐待の要因を分析し,例えば介護負担が原因の場合には介護サービスを増やす提案をしたり,経済的困窮が原因となっている場合には就職支援につなげたり,生活保護受給につなげるなど養護者支援も行います。

仮に虐待と判断されなかった場合でも,あくまで判断主体は市であり,通報者が責任を負うことはありません。

 

虐待かもと思ったらまず通報を

本人が言わないでと言っているから

家族も頑張っているから見逃してあげたい

家庭内の問題に口を挟む必要はない

そういう思いから通報をためらうことがあるかもしれませんが,あくまでご本人の権利・利益を考えれば,もはや家族の問題ではありません。
前述のように早期発見し,最悪の事態を避けるためにも,客観的にみてご本人の権利利益が侵害されているのであれば,虐待に当たる可能性があるとして,通報義務が生じます。

また,虐待防止法は養護者を罰するためのものではありません。
あくまで虐待を解消し,養護者支援についても市は行うことになっているので,
虐待の要因となっていた介護負担や経済的不安について解消するためにも,積極的に早期に通報することが求められています。

皆さんの周りで虐待と疑われる兆候はありませんか。

少しでも気になれば,すぐに通報し,地域全体で虐待を減らし,高齢者・障がい者がみんな自分らしく生きていける社会にしていきましょう。


*次回は施設の元職員による殺人事件というニュースもありました,施設従事者による障がい者虐待について記載できればと考えています。

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