高齢者に多い悩み

高齢者虐待についての正しい知識①~養護者による虐待~

これってひょっとして虐待?

高齢者の配偶者やご両親をもつ方で,日々の介護のストレスや,思うように動いてくれない要介護者に対し,ついイラッとしてしまったこと,ありませんか?

近年,虐待の相談・通報件数及び認定件数は増加しています。
ニュースでも,介護殺人など,虐待の中でも重大事案が取り上げられることが少なくありません。

そこで,虐待とはそもそもどういうものなのか,具体例も踏まえ解説していきたいと思います。

虐待の件数は年々増えている!

まず,養護者(同居の家族などの施設従事者以外の者)による虐待の対応件数をご紹介します。

厚労省の調査によると,

       相談通報   虐待認定
平成18年度 18,390件   12,569件
平成19年度 19,971件   13,273件
平成20年度 21,692件   14,889件
平成21年度 23,404件   15,615件
平成22年度 25,315件   16,608件
平成23年度 25,636件   16,599件
平成24年度 23,843件   15,202件
平成25年度 25,310件   15,731件
平成26年度 25,791件   15,739件
平成27年度 26,688件   15,976件

となっており,年々増えています。


そのうち近年における重大事例である死亡事例は,

平成27年度は20件(20人),平成26年度は25件(20人)との結果が出ています。

虐待の発生原因としては,

介護疲れ・ストレス・・・25%
虐待者の障害・疾病・・・23.1%
被虐待者の認知症の症状・・・16.1%
家庭における経済的困窮・・・14.4%
被虐待者と虐待者の人間関係・・・12.6%
虐待者の性格や人格・・・10.4%

となっています。




 

高齢者の権利・利益のため虐待は防がなければならない!

なぜ,高齢者虐待はいけないのでしょうか。

年々増加する高齢者虐待を防止するため,平成17年,「高齢者虐待の防止,高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」が成立し,平成18年に施行されました。

同法律では,
「この法律は、高齢者に対する虐待が深刻な状況にあり、高齢者の尊厳の保持にとって高齢者に対する虐待を防止することが極めて重要であること等にかんがみ、・・・高齢者虐待の防止、養護者に対する支援等に関する施策を促進し、もって高齢者の権利利益の擁護に資することを目的とする。」(同法1条)と定められています。

高齢者の権利・利益とは,
・憲法13条
 個人の尊厳・幸福追求権
・憲法14条
 平等権
・憲法22条
 居住・移転の自由
・憲法25条
 生存権

などの権利をいうとされ,

具体的には,
○自分が暮らしたい地域で暮らし住み慣れた地域で一生を終える権利
○年齢や障がいの有無にかかわらず,地域社会において,人のとのつながりの中で,自分らしい生き方を求める権利

と理解されます。

これらの権利義務が守られているか,との観点から,高齢者虐待の有無を判断していくことになります。

具体的な事例,虐待を理解するポイント

虐待類型としては,以下のとおり5つの類型に分けられます。

⑴身体的虐待
・平手打ちをする。つねる。殴る。蹴る。やけど、打撲をさせる。
・移動させるときに無理に引きずる。無理やり食事を口に入れる。
・身体を拘束し、自分で動くことを制限する(ベッドに縛り付ける。ベッド柵を付ける。つなぎ服を着せる。)
など

⑵放任(ネグレクト)
・水分や食事を十分に与えられていない。入浴させない。
・室内にごみを放置する。
・本来は入院や治療が必要にもかかわらず、行かせない。介護サービスが必要なのに使わせない。
など

⑶心理的虐待
・怒鳴る、罵る。
・「ここ(居宅)にいられなくしてやる」「追い出すぞ」などと言い脅す。  
・排せつ介助の際、「臭い」「汚い」などと言う。
・トイレを使用できるのに、本人の意思や状態を無視しておむつを使う。
など

⑷性的虐待
・性器等に接触したり、キス、性的行為を強要する。
・排せつや着替えの介助がしやすいという目的で、下(上)半身を裸にしたり、下着のままで放置する。
など

⑸経済的虐待
・本人の通帳等を預かり,本人の希望する金銭の使用を理由なく制限する。
・家賃やサービス利用費を支払わず,養護者のために本人の財産を使用する。
など

虐待に当たるか否かのポイントは,客観的に本人がどのような状況に置かれているかを見ることです。

たとえば,本人の徘徊を防ぐためといって,仕事で出ている日中にずっと南京錠で縛り付けておく行為は虐待に当たります。

また,本人が同意しているとしても,本人の財産のほとんどを自分のために使用し,
本来必要な本人の医療費やサービス利用料が払えない状況にさせることも,虐待に当たります。

高齢者の立場に立って,その言動・置かれている状況がどのように受け止められるか,考えてみる必要があります。
 

虐待は「家族の問題」ではない

高齢者虐待は,「家族の問題」として片づけられるものではありません。

高齢者の権利利益が侵害されている以上,その原因を市町村が主体となって把握し,社会全体の問題として解決する必要があるのです。

高齢者虐待防止法では,虐待の通報があった場合,市町村が主体となって事実確認を行い,虐待判断を行った上で,必要に応じて虐待されている本人を施設へ入所させ,虐待を行っている養護者とを分離する措置や,専門職による成年後見人の選任などにより,本人の権利利益を保護することができるような仕組みになっています。

また,同法では,誰でも虐待かなと思ったときは,市町村へ通報するよう努めなければならないと定めれています。

重大事例である介護殺人のケースでは,
誰にも迷惑かけたくないと,自身が介護により離職し,収入が減った中で,
親戚や介護サービスに頼ることなく自身で家族の介護を抱え込んだ結果,耐えられなくなり殺害してしまうケースがいくつもあるようです。

また,養護者による虐待のケースでは,養護者側の経済状態や,精神状態に問題があるケースが多いようです。

最悪の事態になる前に,虐待に気付いた人は通報を,
また自身がひょっとして虐待かもと思ったときは,一人で抱え込まずに福祉課等や介護支援者等に負担を軽くする方法がないか相談してください。

今後虐待を減らしていくためには,皆が虐待について正しく理解することがもちろん大事ですが,

虐待の背景にある経済的困窮その他の事情については,社会全体でもっと解決していく仕組みを作っていく必要が大きいのではないかと個人的には思います。

 

この記事へのコメント

下記入力欄より、この記事へのご意見・ご感想をお寄せください。
皆さまから頂いたコメント・フィードバックは今後の内容充実のために活用させていただきます。
※ご返答を約束するものではございません。

この記事を書いたコラムニスト

龍村昭子 (タツムラアキコ)

弁護士

平成25年 神戸大学法科大学院卒業,司法試験合格
平成26年 大阪弁護士会弁護士登録, 弁護士法人淺田法律事務所にて勤務開始
令和元年11月~財務局にて勤務(任期付公務員)
(取り扱い分野)一般民亊・家事・企業法務など幅広いですが,分野を問わず高齢者やそのご家族の方からの相談が全体的に多いです。
(委員会活動)高齢者・障害者総合支援センター運営委員会委員として,特に高齢者や障がい者の虐待に関する問題に取り組み,ご本人のみならず,介護施設やケアマネ―ジャーなど支援者の方に対する法律相談や研修などを行っています。

掲載PR一覧

  • 老人ホーム入居相談窓口