高齢者に多い悩み

パソコン教室を辞めたい

パソコン教室に入ったものの

春は気分もウキウキしますね。趣味や習い事など新しい事を始めてみようかと思う季節ではないでしょうか?
習い事で人気の一つはパソコン教室です。しかし,習い始めると「思っていたのと違う」「やっぱり続けられない」というのもよくある事です。
そこで,今回は「パソコン教室に入ったが辞めたい」場合のトラブル対応について書いてみます。
 

思っていたのと内容が違う・・・

Aさんは,数年前にパソコンを買ったものの,あまり使うことはありませんでした。しかし,友人がパソコンを使いこなしているのを見て自分もそれなりに使えたらいいと思い,パソコン教室に通ってみることにしました。
そんな時,「パソコン教室」の折り込みチラシが。「初心者でも3か月で使えるようになります」「月額2500円から」。安いしとりあえず3か月やってみようと思い申し込むことにしました。
契約をして数日後Aさんが教室に行ってみると,講師はおらず,説明のDVDが流れているだけ。途中で操作が解らなくなっても聞く人もいません。周りの人たちもあたふたしています。
受付係の人に苦情を言うと,「入会申し込み兼契約書にDVDでの講義となることは書いてあります。」といわれてしまいました。確かによく見ると細かい字で書いてあります。入会時に聞いていないというと,よく読んでから申し込むように言ったはずとして取り合ってくれません。
Aさんとしては,DVDを見ているだけでは到底上達するとは思えません。
辞めたいと申し出ると,すでに払った3か月の授業料は返還できない,退会手続き費用として別途1万円がかかるとのこと。
確かに入会申し込み兼契約書には,「支払い済みの授業料はいかなる場合も返還いたしません。」「自己理由での退会は,手続き費用として1万円申し受けます」と記載してあります。もっともAさんはこれらを明確に説明を受けた記憶がありません。
Aさんは「騙された」と思いました。
 

まず考えるのは,クーリングオフができるか

さて,Aさんはどうすれば損をしないでパソコン教室をやめることが出来るでしょうか。
まずは,クーリングオフができないかどうかの検討となります。
クーリングオフとは,無条件に申込みの撤回,契約の解除ができる制度です。
クーリングオフが出来れば,契約は最初からなかったことになり,支払い済みの金銭は返還が受けられます。また,解約の手続き費用も不要です。これは,契約書に何と書いてあろうが関係ありません。このように,クーリングオフは消費者にとって強い味方ですので一番始めに検討をすることになります。

もっとも,どのような契約でもクーリングオフが適用されるわけではありません。一般的に適用される取引は,特定商取引法という法律に規定されています。
適用される取引の典型は,訪問販売,電話勧誘販売という形態の取引です。これらの取引は,熟慮する時間がない不意打ち的な勧誘となるため消費者を保護しています。
また,取引形態は問わず,取引対象によって適用されるものがあります。エステ,語学教室,学習塾,パソコン教室等です(特定商取引法41条,同政令12条,別表第四)。これらの取引は,実際に試してみないと効果が判らないものが多いため,取引形態を問わずクーリングオフの対象とされています。ただし,契約期間と金額が一定以上のものが対象であり,パソコン教室であれば2か月以上,5万円を超える取引のみが適用対象となります。
Aさんのパソコン教室の契約は,契約期間は3か月でしたが,契約金額は合計7500円であり,クーリングオフの対象契約とはなりません。
仮に,Aさんの契約が総額5万円を超える契約であった場合は,8日以内であればクーリングオフが可能です。また,クーリングオフ期間が経過した場合でも,途中解約権が認められています(特定商取引法49条1項)。


 

消費者契約法による契約申込みの取消し

一方,消費者と事業者との取引一般を規定した消費者契約法では,事業者が契約の締結について勧誘するときに嘘をついたり,適当なことを言ったり,大事なことを黙っていた場合は契約の申込みやその承諾を取り消すことが出来ます(4条)。
Aさんの場合を見てみましょう。
契約時にパソコン教室側が「インストラクターがいて,わからないところは質問できます。」などと言ってAさんがそれを信じていた場合は,事実と異なることを告げ誤認していますので契約後6か月以内であれば,契約の申込みを取り消すことが出来ます。しかし,今回このようなことはありませんでした。

契約の解除や申し込みの取消しが難しいとして,退会を申し込んだ場合,手続き費用として1万円を支払わなければならないのでしょうか?
消費者契約法では,契約の解除にともなう業者の平均的な損害を超える金額を違約金等とすることは禁止されています(消費者契約法9条)。
月会費2500円のパソコン教室の退会手続きに1万円もかかるとは考えられませんので,この金額は法律に違反し高すぎます。ただ,いくらが適正な金額かは,具体的な事情により異なります。


 

まとめ

結局Aさんは,支払ったお金を取り戻すことができないのでしょうか。
パソコン教室は,インストラクターによる実際の指導があるものと考えるのが一般的です。そうすると,契約時にDVDのみでの講義であることは,受講者にとって重要な事項であり,契約書に細かい字でその旨の記載をすることは,詐欺的な契約とも言えます。
したがって,民法の信義則(1条2項)や公序良俗規定(90条)違反を理由にパソコン教室側と争えば勝てる可能性があります。
もっとも,個人の方が,このような問題で争っていくのは大変です。まずは消費者センターなどに相談しましょう。

一番大事なのは,トラブルにならないよう慎重に契約内容を確認するです。
そして,契約の取消,解除はいろいろな法律で可能な場合があること,また,いったん支払ったお金を取り戻すことは簡単ではないことを覚えておいてください。

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この記事を書いたコラムニスト

堤 茂豊 (ツツミシゲトヨ)

弁護士

大阪弁護士会所属の弁護士です。
大阪市住吉区で事務所を開設しています。
弁護士会の消費者保護委員会で消費者被害の救済,予防の活動をしています。

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