介護保険制度について

検証 「介護保険の見直しに関する意見案」 その②

特養の特例入所、地域に応じた適切な運用を

前回に引き続き、12月5日に公表された社会保障審議会介護保険部会の「介護保険制度の見直しに関する意見(案)」(以下:意見案)について詳しく見ていきましょう。今回は「施設・高齢者住宅の整備」についてです。

 2015年4月より特別養護老人ホームの入所要件が見直されました。①入居は原則要介護度3以上、②ただし「認知症や知的障害・精神障害を患っており、在宅生活は困難」「家族等による虐待などが疑われる」など特に必要性が認められる場合は要介護1、2でも特例で入所が可能、となっています。
これは、特養の入所待機者数が全国的に多く見られたことから、それを早期に解消することが目的でした。その結果について、意見案では「特別養護老人ホームの入所申込者数については、足元の状況をみると、全体としては減少傾向がみられる」と一定の効果があったことに言及しています。もちろん、この背景には、サービス付き高齢者向け住宅など特養の代替となる高齢者住宅の供給が進んだことや、在宅医療・訪問看護の整備など重度・終末期になっても在宅生活を継続できる環境が整ってきたことが理由として考えられます。
 
 しかし、意見案では特養の入居申し込み者数が減少している原因について「地域によっては、高齢者人口の減少のために空床が生じている場合や、人手不足により空床とせざるを得ない場合もあるなどの実態が生じている」とも言及しており、従来の「特養=常に満床」という図式が成り立たなくなっている現実を示唆しています。さらに「要介護1・2の高齢者に係る特例入所については、地域によってばらつきがあるとの報告もある」とも言及しています。

 こうした点を受けて、意見案では、①特例入所の運用状況や空床が生じている原因などについて早急に実態を把握する、②その上で、改めて特定入所の主旨の明確化を図る、など「地域における実情を踏まえた適切な運用を図ることが適当」としています。
つまり、特例入所については、「在宅での生活が困難な中重度の要介護者を支える施設としての機能に重点化されている」という特養の本来の主旨を鑑み、厳密に運用することが基本的な考えますが、地域資源の有効的な活用などを考えて柔軟な運用を認めるケースが出てくることも考えられます。この場合、サ高住や有料老人ホームなど特養の代替施設としての役割を果たしてきた高齢者住宅にとっては入居率に大きく影響が出ることも想定しておく必要があるでしょう。
 
 なお、特養の入居者が要介護度3以上になったことについて、当の特養の現場からは「重度の入所者ばかりになったことで、スタッフの業務が身体介助中心になり、レクリエーションなど入所者とのコミュニケーションが図れる機会が減少した。結果としてスタッフのモチベーション低下につながっている」などの弊害を指摘する声も上がっています。介護報酬次第ではあるでしょうが、柔軟な運用が認められれば、要介護2以下の人を入れたいと考える特養は少なくないと思われます。

 また、国は個室ユニット型特養の整備を進めています。意見案では、個室ユニットについて「プライシーの確保や尊厳の保持」といったケアの本質的な部分だけでなく「新型コロナウイルス感染症が拡大する中で果たした役割(陽性の入所者が出た場合に隔離しやすいなど)」なども踏まえて「引き続き検討していくことが重要」と言及しています。次回の介護報酬改定では、今まで以上に従来型から個室ユニット型への移行を促進させるような報酬体系になることが予想されます。

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この記事を書いたコラムニスト

西岡 一紀 (ニシオカ カズノリ)

なにわ最速ライター

介護・不動産・旅行

介護系業界紙を中心に21年間新聞記者をつとめ、現在はフリーランスです。
立ち位置としてじ手は最もキャリアが長い介護系が中心で、企業のホームページ等に掲載する各種コラム、社長や社員インタビューのほか、企業のリリース作成代行、社内報の作成支援などを行っています。

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