相続・終活の事前準備

遺言書。。ただ書くだけではダメなんです

相続を「争族」にしないためには

師走を迎えました。今年もあっという間に終わってしまいます。
年始を迎えますと、こんな事件を目にすることになるのでは?
そう。「餅を喉に詰まらせて・・・」という記事です。

気候の変動が激しくなると、やはり相続も発生しやすくなります。

ところで、相続がいわゆる「争族」になるのはなぜなのでしょうか?
それは、相続人間で遺産分割について「話し合い」をさせるためです。

一昔前に流行った本で「思考は現実化する」というテーマの本がありました。
言葉として口から吐き出すと、それは言った本人の頭にも残りますし、聞いた人の頭にも強く残ることがあります。
普段の何気ない会話でも時と場合によっては、とげとげしく解釈されることもあります。
実際、私の顧客でも遺産分割の話し合いにおけるちょっとした行き違いで大もめになったこともありました。

では、話し合いを回避させるにはどうすれば良いのでしょうか?
それは、被相続人が遺産分割を生前に指定しておくことです。
そう、「遺言書」の作成です。

遺言書作成には「公正証書」方式がおすすめ

遺言書には3つの様式があることは読者の皆様はよくご存じかと思います。
ただし実務上は自ら文書化する「自筆証書」遺言と、公証役場にて公証人という役職の方に代筆してもらう「公正証書」遺言の2つがメジャーです。

良くセミナーでも話をさせていただくのですが、読者の皆様はこう覚えてください。
遺言書は公正証書で作成するものだと!
というのは、自筆証書遺言の場合、正式な遺言書だと認めてもらうための要件が定められていて、その要件を満たしていないと極論言えば完全に無効とされる危険性があるためです。

そもそも相続において、特に遺産の中に不動産が含まれる場合、やさしい民法が定める法定相続分通りの遺産分割は法定相続分の割合で共有にする以外不可能です。
言い換えるならば、必ず不均等な割合で遺言書は定めざるをえないのです。

不均等ということは、必ず誰かがトクして誰かがソンしているわけです。
そんな遺言が無効になれば、遺言書が最初から無かった場合と比べて、もめやすくなるのは自明では無いでしょうか?

さらに、私が経験した実際の事案です。亡くなった被相続人は遺言書を遺していました。
定められた要件はクリアしていたものの、その中の文書には以下の記載がありました。
「被相続人は相続人〇〇〇〇に、被相続人所有の建物を相続させる」
当然、建物が建っているためには土地が必要ですよね??裁判になればわかりませんが、
土地について遺言書にて指定が無いため、土地についてはお話し合いの対象にならざる得ない、というのが相続登記を担当した当時の司法書士先生のお言葉でした。

これらの問題を回避するためには、法律の専門家である公証人に作成してもらう公正証書の方がより安全だと考えられます。
確かに公正証書遺言の場合、費用がかかることや、利害関係人で無い証人が2名必要というマイナス面もありますが、遺言書の原本は公証役場にて保管されるため紛失の可能性は
皆無であるといったメリットがあります。

もっと重要なことは、家庭裁判所での「検認」手続きを省略できることです。
こんな場面を覚えていませんか?
名探偵金田一耕助の有名な映画である「犬神家の一族」の一場面で、弁護士が相続人の面前で遺言書を読み上げるシーンです。
厳密に言えばこれは違法で、自筆証書遺言が見つかった場合、直ちに家庭裁判所へ届け出て、以後の変造等を防ぐ措置を執ることが法律で義務づけられています。

ということは、その時点で遺言書の内容を相続人に知らしめる結果となり、以後の物事の進め方にも影響が無いと言えば嘘になります。

「遺言書を作成する上で抑えておくべき3つのポイント

ということで、遺言書を作成する場合には公正証書遺言がおすすめとして、ほかに押さえておきたいポイントを列記させていただきます。

第一に、遺言執行人を定めておくことです。この定めがないと、たとえ遺言書があったと
しても遺産の名義変更に相続人全員のサイン他が必要になります。
不満がある相続人にサインを求めるのはできれば回避したいとは思いませんか?

第二に、遺留分について考慮に入れておくべきです。遺留分とは民法が定める相続人が
最低相続できる財産の割合のことです。これもよく質問を受けますが、このようにご理解ください。
遺留分を遺言者の遺志でゼロにすることはできない、と。このため、遺留分を侵害する
遺言書を遺した場合、相続人間で遺留分侵害についての争いが生じる可能性がでます。
遺言をする目的がもめさせないことなので、できるならば、紛争を回避させる内容と
しておきたいものです。

第三に、相続税、特に相続税の各種特例と二次相続(配偶者有りの場合、配偶者の相続のことを二次相続と言います)を考慮した遺言書にすべきです。
例えば、配偶者軽減の取り扱いです。配偶者軽減とは、配偶者が法定相続分もしくは1億6千万円までいずれか高い方の金額まで相続した場合、配偶者には相続税を課さない特例です。

二次相続の場合、法定相続人がマイナス1名になることから、多くの場合税負担は多額になりがちです。
よって、余り多額の遺産を配偶者に相続させると結果として財産の維持の面から考えれば不利な結果となります。
その他に相続税には特例があり、それらの活用を考慮した遺言書にすべきです。

実際に私が直面した事例で、紙面の関係から具体例は割愛しますが、遺言書があったものの、金融機関からよく勧められる「遺言信託」にて作成された遺言書であったがために、逆に大きな問題を引き起こしたケースもありました。

昨今、金融機関のスキルも上がってきたので、そのような失敗事例は減少しているとは思いますが、それぞれの専門家に相談して、無理と間違いの無い遺言書を作成いただき、決して相続人の方々に恨まれないようにしたいですね。

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この記事を書いたコラムニスト

竺川 健治 (ジクカワケンジ)

税理士

大阪市の天満橋駅近くで税理士事務所を営んでいます。
業界的にも珍しく、相続・相続税関係に自薦他薦含めてエキスパートとして活動中。
特に、相続増税の影響からか受任件数も増加しており、多忙な日々を過ごしています。
昔とったなんとかから、ファイナンシャルプランニングもそれなりに知っています。

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