介護業界 嚙み砕き知識・ニュース

2022年の介護事業者倒産数 過去最多その原因と対策を探る その①

 大手信用調査機関の東京商工リサーチの発表によると、2022年の介護事業者の倒産件数は143件で、前年比で76.5%と大幅に増加しただけでなく、介護保険制度誕生してから最多となりました。
なぜ倒産件数がここまで増えたのか、2回にわけて分析してみましょう。

 介護事業者の倒産件数は、棒グラフにもあるように、ここ10年程ほぼ一貫して増加をしてきました。

その主な理由として考えられるのが
①競合施設・事業所の増加による利用者(収入)減
②人手不足による人件関連コストの増加
の2点です。

例えば、2015年に倒産した首都圏のある介護事業者は、一時期高齢者住宅を急ピッチで開設していましたが、ライバル企業の多い地域での展開が中心であったことから、次第に入居スピードに陰りが見えるようになりました。そのことが多額の開設コストの回収に影響を与えるようになり、最終的に資金ショートを起こしてしまいました。
 
 居住・通所系サービスは利用定員があるため、1事業所の売上高には限度があります。売上を増やすには事業所を新たに開設していくしかありません。その結果、大都市圏を中心に介護事業所の新規開設の動きは相変わらず活発で、事業者間の競争は激化する一方です。

また、ここで書くまでもなく、介護業界の人手不足は全く解消する兆しが見られません。こうしたことから、介護事業者の倒産件数はほぼ一貫して上昇し続けて来ました。

ところが、グラフにもあるように、2021年だけは、倒産件数81件と、前年の118件から31.3%も減少しています。
なぜこの年だけ倒産件数が減少したのでしょうか。原因と思われるのは次の2点です。
①2021年4月の介護報酬改定がプラスとなった、
②新型コロナウイルス感染症拡大で影響を受けた企業等に対する融資・助成などの支援策が奏功した。

 これから考えると、2022年の倒産件数が一転して急増したのは、②の効果が薄れてきたことが大きな原因といえそうです。それを示しているのが倒産事業者のサービス種別です。グラフにもあるように、2021年までは「訪問介護事業」の倒産件数は「通所・短期入所介護事業」の倒産件数を上回っていました。しかし、2022年は訪問介護事業が50件なのに対し、通所・短期入所介護事業が69件と逆転しています。
 
 介護事業所の中でも、通所・短期入所介護事業は、高齢者の「外出控え」で利用者が減少した、1日の受け入れ人数を制限せざるを得なかった、など特に新型コロナで経営に大きな影響を受けました。融資や助成の効果がなくなったことで、それらの事業者が音を上げたと考えられます。
 
 そうした状況に加えて、昨年来の円安や、ガソリン価格など各種物価高による運営コストの増加が介護事業者の経営難に拍車をかけました。加えてコロナ禍が続く中、感染防止対策コストもばかになりません。介護業界からは「昨今の物価高に配慮した臨時の報酬改定(引き上げ)を行って欲しい」という要望も上がっていますが、これが認められると、逆に物価が安いときに臨時の報酬引き下げが行われる可能性もあるため、業界にとっては両刃の件と言えそうです。

今後、介護報酬が大幅に引き上げられることは期待できませんし、人手不足が一朝一夕に解消される見込みもありません。この春にコロナの感染症区分が2類から5類に引き下げられれば、感染対策コストについては現状より多少削減できそうですが、介護事業者にとって経営的に厳しい環境は続くでしょう。では、事業者としては、今後どのような対策を講じていけばいいのでしょうか。次回のコラムでは、この辺りを検証していきましょう。
(後編に続く)

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この記事を書いたコラムニスト

西岡 一紀 (ニシオカ カズノリ)

なにわ最速ライター

介護・不動産・旅行

介護系業界紙を中心に21年間新聞記者をつとめ、現在はフリーランスです。
立ち位置としてじ手は最もキャリアが長い介護系が中心で、企業のホームページ等に掲載する各種コラム、社長や社員インタビューのほか、企業のリリース作成代行、社内報の作成支援などを行っています。

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