介護施設での暮らし

「施設入口にスタッフ全員の顔写真掲示」 その存在意義と、制作する際の注意点

介護コンサル「あれがある施設は質がいい」

有料老人ホームやデイサービスに行くと、入口近くにスタッフの顔写真が大きく掲示してあることがあります。

そこには介護職や看護師、ケアマネジャーなど利用者に直接関わるスタッフはもちろん、事務職、調理担当者・栄養士、運転や清掃のパートなど、そのホームに携わる人全員の笑顔の写真が掲示されています。
この写真ボードは何のためにあるのでしょうか?
利用者や家族のためでしょうか?見学者や出入りする業者のためでしょうか。

ある高齢者住宅コンサルタントは「この写真ボードがある事業所はサービスなどの品質に優れていることが多い。良い事業所を見極めるバロメーターになる」とコメントします。
つまり見学者など外部向けのアピール材料としての性格が強いと考えられます。

では、なぜこれが事業所の質を判断する材料となるのでしょうか。

こうしたボードを制作するには「スタッフ全員が撮影に応じる」ことが大前提になります。

しかし、これがなかなか難しいのです。
介護事業所で働く人の中には、ほかに仕事がなく嫌々ながら介護職をしている人もいます。転職を考えている人もいます。
こうした人たちは、仕事に対する誇りも無ければ、職場への愛着もありません。
「自分がここの事業所で働いていることを他人に知られたくない」「どうせすぐ辞めるから関係ない」と考え、写真撮影を拒否することが多いのです。

また、こうしたスタッフ側の事情ではなく、各種ハラスメントや法令違反、利用者虐待の横行などといった介護事業者側の姿勢や体制の問題でスタッフが職場に誇りを持てず、撮影を拒むことも考えられます。

つまり「全員が写真撮影に応じる=全員が仕事や職場に誇りや愛着を持っている」ということであり、それは、その事業所に問題点が少ないという証しになります。
逆に言えば、こうしたボードを作ろう(別にボードで無くても構いません。施設のパンフレットやホームページでも同様で)とした際に「私は、写真を撮られるのは嫌です」という人がいた場合、あるいは撮影には応じたものの笑顔ではなく仏頂面だった場合は、仕事や職場に誇りを持てずモチベーションが低下している可能性が高いと判断できます。

早目に面談を行うなどして離職を防ぐなどの取り組みが求められます。

写真の大きさで組織の人間関係にヒビ

さて、こうしたボードを制作する場合にも注意点があります。
それは「全スタッフの写真を同じ大きさで掲示する」ということです。
ホーム長など組織の幹部をボードの上方や中央に配置したり、職種ごとにまとめて配置したりするのは見やすさという点で効果的です。

しかし、この場合、ホーム長の写真だけを大きくしたり、事務職や運転手といった間接部門のスタッフを介護職や看護師よりも小さく掲示したりするケースが見受けられます。
制作する側からすれば、無意識のうちに、もしくはあまり深く考えずにそうしてしまった、というケースが多いでしょうが、
小さく掲示されたスタッフからすれば「私たちの仕事は介護職よりも下なのか」と面白くないでしょう。

また、それを見ている利用者や家族が「事務職や運転手は偉い人ではないのだから」と思い、指示や要請を聞かなくなる、という事態になることも考えられます。
「介護職員処遇改善加算の対象が介護職員だけだったことで、介護スタッフとそれ以外のスタッフとの間に一時『すきま風』のようなものが吹いてしまった」という介護事業所の声は多く聞かれました。
事業所内位は今でもそうした燻りのようなものが残っていることも考えられます。

写真の大きさは、そうした燻りに再び火をつけ、職場内の人間関係を崩壊させる危険性を秘めているともいえます。

この記事へのコメント

下記入力欄より、この記事へのご意見・ご感想をお寄せください。
皆さまから頂いたコメント・フィードバックは今後の内容充実のために活用させていただきます。
※ご返答を約束するものではございません。

この記事を書いたコラムニスト

西岡 一紀 (ニシオカ カズノリ)

なにわ最速ライター

介護・不動産・旅行

介護系業界紙を中心に21年間新聞記者をつとめ、現在はフリーランスです。
立ち位置としてじ手は最もキャリアが長い介護系が中心で、企業のホームページ等に掲載する各種コラム、社長や社員インタビューのほか、企業のリリース作成代行、社内報の作成支援などを行っています。

掲載PR一覧

  • 老人ホーム入居相談窓口