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なぜ、重説を事前に見せるのはNG? 入居者の選択の機会を損ねることに

ホームページやパンフレットではわからないことも

「そちらのホームに興味があるので、パンフレットを送って欲しい」
そう言われて、すぐに対応しないホームはないでしょう。
 
では「重要事項説明書(以下:重説)を送って欲しい」と言われたらどうでしょうか?
残念ながら「それはできかねます」という対応のホームが多いようです。
重説をホームページで開示しているホームもありますし、自治体が取りまとめてホームページで開示しているケースもありますが、多くのホームにとって重説とは「入居契約時に初めて見せるもの」という認識のようです。

しかし、その対応は果たして正しいものでしょうか?

パンフレットやホームページに書かれていることだけでは、ホームの全てはわかりません。
パンフレットに「スタッフが24時間サポート」とあっても、そのスタッフが介護業界で勤務を始めて間もない人ばかりなのと、半数がキャリア10年以上の場合とでは、入居者が得る安心感は全然違います。
「楽しいレクリエーションを毎日実施」と書いていても、入居者の平均要介護度が2未満のホームと4以上のホームでは、行っているレクの内容は全く異なります。

高齢者住宅に少し詳しい人であれば、そうした事情を知っていますから、「パンフレットやホームページではわからない詳しい情報を知りたい。重説を見たい」と思うのは当然のことです。

また、ホームにしたら、事前に重説を読み、ホームのことを十分に理解した上で入居してくれれば、入居後に「思っていたのと違う」と言われ、短期間で退去されるリスクを軽減できます。
一から十まで説明をする必要が無く見学時間を短縮できますから、新型コロナの感染予防対策の面からも効果的です。
 
このように、双方にとってメリットがあるにもかかわらず、なぜホームは重説を事前に渡すことを拒むのでしょうか?

契約当日に読み上げるだけで十分か

理由として考えられるのは「パンフレット・ホームページと重説の内容に齟齬がある」です。
まさかパンフレットやホームページに「嘘」は書かないでしょうが「都合の悪いこと(有資格者が少ないなど)は書かない」のは当然のことです。
もし、事前に重説を読まれたら、それらの「都合が悪いこと」を知られてしまいます。しかし、それに対してはこんな声もあるでしょう。「契約時には、どうせ重説に目を通してもらうのだから、そのときに『都合が悪いこと』は知られてしまう。隠すことに意味はない」
 
確かにそうですが、重説を事前に入手するのと、契約時に初めて目を通すのでは消費者のホームに対する理解度は全然違います。
事前に入手すれば、時間はたっぷりありますから、納得いくまで何回も目を通すことができます。複数のホームの重説を取り寄せて比較検討することができます。

そして、結果として「このホームには入居しない」という選択をすることも可能です。

一方で、契約時に初めて目にする場合はどうでしょうか?

いくらホーム側が読み上げてくれても、初めて見る書類の内容全てをその場で理解できません。
何か疑問があっても「相手の説明を遮って質問するのは憚られる」という人も多いでしょう。

そして、何よりも「契約を交わす段階まで来ておいて、重説の内容に疑問があるからといって契約をしない」ということは、入居する側の心理としてできるものではありません。
もちろん、ルール上は可能ですが、「一刻も早く親を入居させたい」「再び一からホーム探しをするのは大変だ」などの理由から、多少疑問点や理解不足の点があったとしても契約をしてしまうでしょう。
「重説を見た結果、入居を取りやめる」というケースはほとんど発生しないと思われます。

こうしたことからも、重説を事前に渡すことを拒むホームからは「入居の意思決定にかかわる材料をなるべく消費者にわたさず、自分たちが主導権を握って有利に進めたい」という本音が見え隠れします。

しかし、重説をホームページなどで公開するホームもある中で「事前に重説は渡さない」という対応をとっていることが、果たして消費者の支持を得られるでしょうか。

改めて考える必要がありそうです。

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この記事を書いたコラムニスト

西岡 一紀 (ニシオカ カズノリ)

なにわ最速ライター

介護・不動産・旅行

介護系業界紙を中心に21年間新聞記者をつとめ、現在はフリーランスです。
立ち位置としてじ手は最もキャリアが長い介護系が中心で、企業のホームページ等に掲載する各種コラム、社長や社員インタビューのほか、企業のリリース作成代行、社内報の作成支援などを行っています。

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