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まだ全国に262棟 無届ホームはなぜ無くならないのか

「高齢者ハウス」などの名称で運営

有料老人ホームとしての届出・サービス付き高齢者向け住宅としての登録のいずれも行なわずに運営している、いわゆる「モグリ」の有料老人ホームは、厚生労働省の調査では2016年は全国に1207件存在が確認されましたが、行政の指導による届け出の増加や廃業などにより、17年には1049件、18年897件、19年662件とその数は減り続けています(いずれもその年の6月30日時点)。

高齢者住宅に関するシンクタンクであるタムラプランニング&オペレーティングによると、2020年10月時点でその数は262件とさらに減少していますが、それでも「高齢者ハウス」「サポート付き高齢者住宅」などの名称で運営している(「介護付き」「有料老人ホーム」「サービス付き高齢者向け住宅」などの言葉を使えないため)ところが散見されます。

なお、届出をしていない有料老人ホームについて、厚生労働省などの行政は「未届有料老人ホーム」という名称を使用しています。これだと「届出をしようという意思があるのに、まだしていない」という性善説的なニュアンスになります。しかし、詳細は後述しますが、実際には「確信犯的に届出をしていない」ものが大半であり、その観点からも「無届有料老人ホーム」という呼称の方が実態に即していると言えます。(以下、本稿では「無届ホーム」と記述します)

「届け出る手間・時間が割けない」

私が新聞記者時代には、こうした無届ホームを何件か取材したことがあります。無届の理由としては、以下のようなものがありました。
① うちは届出が必要な有料老人ホームに該当しない(有料老人ホームの届出義務について定めている老人福祉法を理解していない)
② 届出のための時間・手間が確保できない
③ 元気な高齢者も入居しているので、「老人ホーム」という名称にしたくない
④ 届出をすると人員配置や設備基準を満たすために費用がかかり、低所得者が入居できなくなる
いかがでしょうか?

①は事業に関連する法規について無知な時点で経営者として失格、②③も同様の事情を抱えながら届出を行っている有料老人ホームが多数ある中では何の言い訳にもなりません。④は言語道断で、一見すると低所得者のためと「社会正義」振りかざしていますが、そのために関連法規を無視し、安全性を蔑ろにしていい理由はどこにもありません。自動車メーカーが「消費者のために安い自動車を」といって、ブレーキを付けない車を製造することが許されるでしょうか。それと同じです。

「老人ホームに該当しない」と行政が黙認

さて、仮に届出をせずに施設を運営した場合、行政が、その施設の存在を認識し、「この施設は老人ホームに該当する(届け出が必要なのにしていない)」と判断することで、初めて「無届ホーム」となります。逆に言えば、存在が発覚しても、行政が「老人ホームに該当しない」と判断すれば、行政は「有料老人ホームとして届け出るように」などの指導をしてきませんから、大手を振って無届で運営できます。

新聞記者時代に、ある高齢者施設で入居者が死亡する事故がありました。それを報じる記事中で「無届ホーム」と記載したところ、読者から「あの施設について行政は『老人ホームに該当しない』と判断している。だから無届ホームとは呼べない」との指摘を受けました。

私は早速その自治体の担当部署に電話で確認しましたが「有料老人ホームには該当しないと考えている」との回答でした。私は「老人福祉法に記載されている有料老人ホームの定義に該当しているはずだが、どのような根拠で該当しないと判断したのか」と何度も質問しましたが、相手は「総合的に判断した」と繰り返すだけでした。なんだか触れてはいけない闇を感じたものです。

別の無届ホームを取材したときのことです。この会社では、無届ホームを何棟も運営していました。対応してくれた人に「よく、行政が何も言ってこないですね」と聞いたところ「うちの社長は地元の議員なので」との答えでした。

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この記事を書いたコラムニスト

西岡 一紀 (ニシオカ カズノリ)

なにわ最速ライター

介護・不動産・旅行

介護系業界紙を中心に21年間新聞記者をつとめ、現在はフリーランスです。
立ち位置としてじ手は最もキャリアが長い介護系が中心で、企業のホームページ等に掲載する各種コラム、社長や社員インタビューのほか、企業のリリース作成代行、社内報の作成支援などを行っています。

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