介護業界 嚙み砕き知識・ニュース

オーナー企業の悩みの種は「後継者問題」。介護業界での現実とは。

ここ数年、大手家具店の創業者とその娘である2代目社長との親子喧嘩はメディアの格好のネタでした。親子であっても、会社経営となると考え方の違いなどが如実に表れて仲違いをしてしまうようです。

介護業界には、2000年の介護保険制度創設前後に設立された会社が多く、創業社長が年齢的に引退を考える時期に来ています。スムーズに代替わりが進む一方で、この家具店のように一悶着ある会社も少なくありません。今回は、「2代目」「跡取り」をテーマに、介護業界のエピソードを紹介します。

後継者である息子が突然退職

A社には創業社長の息子が在籍しており、社内的にも外部の人も「2代目は息子」というのが共通認識でした。
しかし、ある日突然、息子は会社を辞めてしまいます。
創業者は元々別業界で会社経営をしていたのですが、以前の業界は、言葉を選ばずに言えば、
「経営者なら『飲む・打つ・買う』は当たり前」という世界でした。

創業者も多聞に漏れず、介護で起業してからも夜の店で懇意になった女性を高額給与で入社させたりしていたのですが、
これに対し息子は「以前の業界ならともかく、公的な資金が入る介護業界で、そんな滅茶苦茶は許されない」と、反発したのです。
困ったのは創業者です。もともと息子に譲ることが既定路線でしたので、ほかに後継者候補を社内で育成して来ませんでした。

2代目が決まらないまま、時間ばかりが過ぎていきました。結局、会社を第三者に譲渡して、無事にリタイアできましたが、かなり高齢になるまで自らが経営の最前線に立たざるを得ませんでした。

「息子は入社させない」と言っていたはずが・・・

B社の創業社長は、子どもを自分の会社には入れませんでした。
「社長の子どもが社内にいたら、ほかの社員の出世のチャンスを奪うことになる。モチベーションも下がる」というのが理由でした。しかし、老境になるにつれて肉親の情が湧いてきたのでしょうか、ある日突然、子どもを入社させます。実はB社は、新規事業を立ち上げたばかりでしたが、介護とは直接関係ない分野のビジネスであったため、これまでとは異なる販売ルートの確立が喫緊の課題でした。

「息子がこれまで働いてきた業界で培った人脈が、新たな販売ルートの確立に役立つ」というのが、子どもを招聘した理由だそうですが、社長の方針変更でチャンスを奪われた社員の気持ちはどうだったでしょうか。

肉親の情がかえって仇に

最近は政治家をはじめ、とかく世襲に対してとかく世間の目は厳しいものですが、世襲=悪ではありません。後継者に素養があるか、後継者としての教育をしっかり受けているのならば、子どもなど身内に地位を譲るのは決して悪いことではありません。

しかし、普段は冷静な判断ができる経営者も、自分の子どものこととなると素養や能力などは二の次となってしまうこともあるようです。

ある医療法人は、新規事業としてサービス付き高齢者住宅を運営することになり、息子をホーム長に就任させました。理事長には3人の息子がいたのですが、長男・次男は医師になっており、ホーム長に就任したのは三男でした。

しかし、残念なことに、この三男の出来は、決して褒められたものではありませんでした。開設式でごく簡単な挨拶を任されるも、途中で言葉が飛び、1分以上沈黙してしまいます。「このホーム長で、大丈夫だろうか・・・」と参加者の誰もが不安を抱きました。

そして、その不安は的中します。開設数ヵ月後に医療法人自体が倒産してしまったのです。
そのときに知ったのですが、この医療法人は経営的に行き詰っており、サ高住は一発逆転を狙った一か八かの作戦だったのです。もし、サ高住の入居がスムーズに進まなかったら数ヵ月で資金ショートするという状況でしたら、外部から優秀な人材を招くべきでした。「医者になれなかった三男にはせめて新規事業のトップに・・・」という親心が仇になってしまいました。

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この記事を書いたコラムニスト

西岡 一紀 (ニシオカ カズノリ)

なにわ最速ライター

介護・不動産・旅行

介護系業界紙を中心に21年間新聞記者をつとめ、現在はフリーランスです。
立ち位置としてじ手は最もキャリアが長い介護系が中心で、企業のホームページ等に掲載する各種コラム、社長や社員インタビューのほか、企業のリリース作成代行、社内報の作成支援などを行っています。

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