介護業界 嚙み砕き知識・ニュース

「介護現場のICT導入」は、なぜ「笛吹けども踊らず」なのか

見守り機器導入で夜間人員配置基準緩和

介護業界の深刻な人手不足が続く中で、ICTなどを活用して従来よりも効率的にサービス提供を行える体制作りを進める動きが進んでいます。
2021年介護報酬改定でも、その観点から様々な対応が行われています。
 
例えば、これまでも特養などでは、入居者の15%に見守り機器を導入した場合は、夜間職員配置加算(0.9人配置)の対象となっていましたが、21年報酬改定では見守り機器の導入割合が15%から10%に緩和されました。

さらに、新たに、
①入所者100%に見守り機器を導入している、
②夜勤職員全員がインカム等のICTを使用している、の2点を満たせば、0.6人配置を可能とする新要件を設けています。
また、①②を満たせば、夜間の人員配置基準も緩和されます。

ただし、これらについては「見守り機器やICT導入後、要件を少なくとも3ヵ月以上試行し、現場職員の意見が適切に反映できるよう、夜勤職員をはじめ実際にケア等を行う多職種の職員が参画する委員会において、安全体制やケアの質の確保、職員の負担軽減が図られていることを確認した上で届け出るものとする」とされています。

この他にも「運営基準や加算の要件等における各種会議等については、テレビ電話等の活用も認める」「薬剤師による居宅療養管理指導について、情報通信機器を用いた場合、1回45単位を月1回まで算定可能とする」などが今回の報酬改定では盛り込まれました。

「ICTが苦手」だけが理由か…

今回の報酬改定に限らず、介護現場におけるICT活用の必要性は以前より指摘されてきたことですが、実際の介護業界の取り組み度合いは今ひとつ、といった感じがあります。

例えば、日々の介護記録にしても、かなり大手の介護事業者でも未だに手書きといったケースが散見されます。

介護業界でのICT導入の動きが低調なのはなぜでしょうか。
大きく原因は3つあると言われています。
①導入コストが高い。
②機能面などで現場のニーズにマッチした機器が少ない。
③介護スタッフが機器を苦手にしており導入に拒否感を示す。

この中で、もっとも「あるある」なのが③ではないでしょうか。
介護スタッフは、他産業に比べて年齢層が高い人が多いこともあり、ことさらICTに対する苦手意識が強いようです。

会社側で導入を検討しても「今から新しい機器の使い方など覚えられない。それならば今のままでいい」と反対されて、実現しなかったという話をよく聞きます。
中には「機器を導入するなら退職する」とまで口にするスタッフもいるそうです。

しかし、そうした人たちでも、私生活ではSNSやメールを使い、普通にインターネットで買い物をしているのですから、ことさらICTが苦手とも言えません。

実際にICTを導入した介護事業所に聞くと「使い方について説明を受ければ、年配のスタッフでもすぐに理解し、使いこなすことができています」と語ることが多いです。

要は「しっかりとした説明を受ける機会を設けられるか」が、ICT導入がスムーズに進むカギと言えそうです。

夜勤専門スタッフにどう説明するか

しかし、ICT機器メーカーの社長は、「特養や24時間365日稼働している事業所では、介護スタッフ一度に顔を合わせられない。
効率的に説明する機会自体が設けられない」と指摘します。

特に、見守り機器は主に夜間に使用することを想定していますが、夜勤専門の介護スタッフに対しては説明する機会を設けることが難しく「最も有効性を理解してもらいたく、最も使って欲しい人に、最も伝えられない」という事態になってしまっています。

介護事業者側としては、ICTをスムーズに導入させるには、代替の夜勤スタッフを確保し夜勤専門スタッフにも昼間の説明会に参加してもらう、メーカー側に夜間に説明会を行ってもらう、など何らかの特別な対応を考える必要があると言えそうです。

「夜勤専門スタッフには、説明を受けた昼間のスタッフから説明させる」といった対応ですと、夜勤専門スタッフは「自分たちは蚊帳の外に置かれた」と感じてしまい、かえって意固地になって導入に反対する、といった事態になることも考えられます。

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この記事を書いたコラムニスト

西岡 一紀 (ニシオカ カズノリ)

なにわ最速ライター

介護・不動産・旅行

介護系業界紙を中心に21年間新聞記者をつとめ、現在はフリーランスです。
立ち位置としてじ手は最もキャリアが長い介護系が中心で、企業のホームページ等に掲載する各種コラム、社長や社員インタビューのほか、企業のリリース作成代行、社内報の作成支援などを行っています。

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