障害を持つ方に

『精神科病院』と『医療保護入院』①~弁護士の視点から~

自己紹介

日本の精神科医療の現状や課題について、弁護士の視点から情報発信していきたいと思います。
 
私は、5年前から、認定NPO法人大阪精神医療人権センター(https://www.psy-jinken-osaka.org/)の理事に就任し、また、大阪弁護士会 高齢者・障害者総合支援センター運営委員会(通称ひまわり)の活動に参加するようになり、精神障害者の権利擁護活動に携わるようになりました。

精神科病院と入院形態

精神科病院とは、精神病床(精神疾患を有するものを入院させるための病床)を有する精神科医療を担う病院とされています。
精神科病院における入院形態には、大きく分けて、①任意入院、②措置入院、③医療保護入院の3種類があります。
 
第1回目のコラムでは、精神科病院の入院形態の1つで、強制入院である「医療保護入院」の現状と課題について、取り上げてみたいと思います。

医療保護入院とは??

医療は、当たり前のことですが、医療を受ける者に対し、十分に説明し、その意向を十分に尊重しなければならず、医療を提供する側と医療を受ける側の信頼関係があって、はじめて良質かつ適切な医療が可能となります。
しかしながら、精神科病院では、本人の意思に反して、強制的に入院させることができる制度があります。その強制入院の一つが医療保護入院です。
 
医療保護入院は、たった1名の精神保健指定医の診察の結果、「精神障害者であり、かつ、医療及び保護のため入院の必要がある」と判断し、家族等のうち1名が同意すれば、本人が入院を拒否しても、入院させることができてしまいます(精神保健福祉法33条)。
本人の意思に反して強制的に入院させるということは、「人間の尊厳」という観点から十分に検討されなければなりませんが、精神保健福祉法では医療保護入院の要件が厳格に定められておらず、現場でも緩やかに解釈されてしまっています。
 
また、精神障害者の人権に配慮しつつ、その適正な医療及び保護を確保するために、精神医療審査会が、精神科病院から独立した第三者機関として設置されていますが、事後的な書面審査(入院届や定期病状報告)で入院継続不要と判断される割合は、ほぼ0%という驚く結果となってしまっています。外部から、十分なチェック機能を果たすことができていないのが、現在の運用です。

医療保護入院の実情

精神保健福祉資料(2014年6月30日時点)によれば、日本では、約29万人が精神科病院に入院しており、そのうち、約13万人[約45%]が強制入院である医療保護入院であり、日本の精神科医療では強制入院が頻繁に利用されてしまっています。
また、29万人の入院者のうち、約15万人[約55%]が65歳以上で、精神科病院に入院する高齢者が数多く、認知症を理由とする入院者も増えていると指摘されています。さらに、1年以上の長期入院者も約18.6万人[約64%]が存在し、いわゆる社会的入院も社会的な問題となっています。
 
厚生労働省は、2004年9月、精神保健医療福祉の改革ビジョンを示し、「入院医療中心から地域生活中心へ」という基本施策を推し進めようとしましたが、十分に成果をあげることができていません。

私たちができること

弁護士・大阪精神医療人権センターの理事をしていると、「精神科病院から退院したい」、「不当に入院させられている」という声がたくさん届きます。
弁護士業務としても、精神科病院に入院中の方の退院請求や処遇改善請求の代理人活動を行うこともあります。
 
医療保護入院が安易に利用されているのではないか、また、医療側の都合により、本人の意思を軽視しているのではないか、このような疑問を社会にしっかりと発信していく必要があると考え、精神障害者の権利擁護活動の必要性を日々感じています。

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この記事を書いたコラムニスト

細井 大輔 (ホソイ ダイスケ)

かける弁護士事務所 弁護士

2007年9月に弁護士登録をして以来、東京と大阪で執務してまいりました。
東京では、M&A・業務提携・パテントプール等の運営を含む知財取引案件・外資系企業やIT企業を中心とする企業法務を中心に取組み、この経験を活かして、大阪では事業再生や中小・ベンチャー企業の支援等新たな分野にも積極的に取り組んでいます。

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